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全社DXの価値実現に向けた出口戦略立案の6つのステップ【第9回】

塩野 拓、南ヒョンヨン(KPMGコンサルティング)
2023年5月8日

ステップ4:ワークシフト計画の立案

 DX推進スケジュールや、ステップ5のスキルアップ、教育計画の立案と連携しながら、いつまでに、どの業務のワークシフトを完了させるか、そのためにどのような教育を行うか、業務のワークシフトにおけるモチベーションマネジメントをどう行うか、タスクとスケジュールを明確化する。

 既存業務から何人の社員をどの業務にシフトするかを試算し、新たな業務で必要なスキルを確認していく。スキル要件の策定方法については、『DX推進現場に所属するメンバーに求められるデジタル人材像(DX人材モデル)【第5回】』を参照いただきたい。

 ワークシフトによって現在の組織構造と大きく変わる可能性がある場合は、現場リーダーだけでは計画検討もその実行も難しいであろう。そのような場合には、人事部門や、場合によってはコンサルタントなどの外部の専門家も巻き込みながら、新しい組織構造を踏まえた中長期的な人事計画も検討しておくことを推奨する。ここは自部門のみならず、全社的な視点での計画が重要である。

 組織の中には、役割変更や異動について前向きでない管理職もいる。だが、ここを疎かにしてしまっては、全社ビジョンを達成するための付加価値の創出というDXの真の成果につながらないことを肝に銘じ、全社一丸となって取り組むことへの働きかけが肝要である。

 業務のワークシフトによる個人のモチベーションの変化に対するケアも計画の中に盛り込む必要がある。「ワークシフトにより評価や給与が上がる」「将来のキャリアパスに好影響を与える」など、社員個人のメリットを明確にし、該当社員にそれらを明示するステップをしっかり踏むことが重要になる。

 そうすることにより、変化を望む社員の士気をさらに高めると同時に、変化に不安を感じている社員にも前向きに、今後の教育とワークシフトに取り組んでもらえるようになる。

 そもそも社員全般に変革を許容・歓迎する意識が醸成されていない場合は、DXの方向性や目的、社員のためであるというメッセージと合わせて、改めて社内への啓蒙活動を展開する必要がある。そのメッセージを現場リーダーがさらに咀嚼し、前述したメリットを交えながら社員に伝えていく主体になれば、ワークシフトのスピードアップにつながるであろう。

 一般社員にとって身近な上位者である現場リーダーが、対象者に対してしっかりコミュニケーションを取り、ケアすることがモチベーションマネジメントの核心である。ワークシフトの対象者がメリットを確実に受けられるように、経営層との合意を取っておくことは言うまでもない。

ステップ5:教育計画立案(リスキリング計画)

 ステップ4の一部に位置づけられ、ワークシフト後を見据えて、自動化された業務や、付加価値を生む新しい業務を遂行できるスキルアップ教育(リスキリング)を計画する。目的、目標、対象範囲、教育方法、目標管理方法、タスク、スケジュール、推進体制、課題・リスクなどを現場リーダーが主体になり、計画書などの形にまとめていく。

 教育方法としては、座学研修とOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を組み合せると効果が高まると筆者らは考える。

 座学研修では、組織的な弱点に合わせてカリキュラムを組むことが望ましい。現場リーダーは人事部門にワークシフト後に必要なスキルを提示し、それらに合ったカリキュラムの検討を依頼する必要がある。必要なスキルの検討自体に難航している場合は、社内外の有識者に頼りながら検討しても良い。

 OJTでは、個人ごとの弱みを踏まえながら現場教育を通じオペレーションスキルを中心に強化する。実務の中で課題や壁に気づいた際に、いつでも座学研修を受けられるような仕組みを整える。OJT期間では、学習時間も鑑みて業務量の調整が必要になる。

 目標管理の方法では、定期的に対象者のスキルを測定し、目標に対する達成状況を把握した上で、追加研修の実施やプロジェクト期間の延長、対象者間の役割の修正などの改善策を検討する。

 付加価値を生む新しい業務へのアサインは、能力の高い社員から優先して選抜する。チャレンジできる役割や活躍の場を提供しながら、能動的に取り組むように計画する。今後のキャリアパスと人事評価上のメリットもステップ4で検討しておくとよいだろう。最低でも半年は教育期間としてスケジューリングすることを推奨する。

ステップ6:スキルアップ教育の実施とワークシフトの実行

 計画に基づいて次世代を担うスキルアップ教育(リスキリング)を実施し、計画に基づいてワークシフトを進める。高いスキルを必要とする業務や、目標に対するスキル向上の進捗が著しく悪い場合は、現場リーダーは外部人材の採用も検討する必要があるだろう。

 ワークシフトは現場に任せるのではなく、ワークシフト状況を定期的にモニタリングし、進捗に応じて教育方法や対象業務の見直しなど、組織的な改善活動を目指す。自部門としてどのような働きかけができるか、現場リーダーが主体となり遂行・実行を進めることが重要である。

塩野 拓(しおの・たく)

KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。

南 ヒョンヨン(なむ・ひょんよん)

KPMGコンサルティング マネジャー。日系家電メーカーにおける直接購買のバイヤー業務に従事後、大学院に進学しMBAを取得し、現職に至る。製造、広告、公共などの業界を中心にDX戦略・構想策定、DXに伴う組織変革(チェンジマネジメント)、AI・RPAなど先端テクノロジーを活用した業務改革など多数のDX領域での支援に携わる。