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  • 成果を最大限に引き出すワークプレイスのあり方

人的資本経営の実現に向けデータを活用したワークプレイス変革を

「DIGITAL X DAY 2022〜働き方改革を実現する『 チームビルディング 』」より、EYの鵜澤 慎一郎 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年1月30日

働き方の意識や環境は従業員と経営者で大きなギャップがある

 人的資本を大切にしていることを示す要素の1つとして鵜澤氏は、「職場環境(ワークプレイス)」を挙げる。

 従来のワークスペースは、土地や建物、設備を中心とした執務環境を指してきた。だがリモートワークやコワーキングスペースなどの普及により、働く環境はフレキシブルになった。さらにデジタル化が進んだことで、「働く場や環境、時間などを自由に選択できるなど、ワークプレイスの概念は大きく拡張している」(鵜澤氏)。

 概念が変化する中で、私たちの働き方に対する意識が、どう変化しているのかを把握するためにEYは、1万7000人の従業員と1500人以上の経営者を対象にした大規模調査『EY Work Reimagined 2022 Survey』を実施している。

 同調査からは大きく4つの変化が浮かんできた。第1は、80%の従業員が週2日以上、平均して2.9日のリモートワークを希望していること。ハイブリッドワークについても。従業員の27%が十分に推進されているとは言いがたいとした。

 この結果について鵜澤氏は、「経営者の認識とは大きなギャップがある」と指摘する。例えば先頃も米Twitterのイーロン・マスク氏が、「オフィスに戻ってこない社員は退職を勧める」という厳しいメッセージを送っている。だが「業界を問わず、従業員はより柔軟な働き方を希望している」(同)わけだ。

 第2は、79%の従業員がパンデミックの影響を考慮した非金銭的報酬を含めた“トータルリワード”の見直しが必要だと考えていること。これには83%の経営者が賛成している。「両者ともに従来の報酬体系を変えなければならないと考えている。金銭面以外のインセンティブを増やす、あるいは、もう少し柔軟な制度にしなければならないと考えていると思われる」(鵜澤氏)

 第3は、労働市場の逼迫だ。73%の従業員が今後12カ月以内に離職する可能性が高いと回答した。「2021年の7%から飛躍的に増加した。米国では“大退職時代”が進行しており、退職する人をどうやって抑えていくかが問題になりつつある」と鵜澤氏は話す。

 そして第4は、新しい働き方の実現の成否が極めて甚大なインパクトをもたらすことだ。「経営者も働き方を変えることに手応えを感じている。組織風土と生産性の変革にはポジティブな認識を持っており、95%の経営者が新しい働き方の実現に対する即応性があると回答した」(鵜澤氏)

日本はパンデミックを働き方改革のチャンスにできなかった

 さらに鵜澤氏は、「世界と比べると日本は保守的で周回遅れに近い認識になっている」と警鐘を鳴らす。ハイブリッドワークの出遅れのほか、世界では生産性を正しく測定・評価する機運が高まっているのに対し、「日本では依然として意義の認識や取り組みにおいて後塵を拝している」(鵜澤氏)という。

 世界では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが生産性の測定を再考する契機になったことに、「強く同意する」との回答が25%、「同意する」が37%に上る(図2)。それが日本では、「強く同意する」は8%、「同意する」も29%だった。

図2:生産性の測定に対する海外と日本の認識の違い。『EY Work Reimagined 2022 Survey』より

 鵜澤氏は、「残念ながら日本はパンデミックを新しい働き方に向けたチャンスとして生かせなかった」とみる。

 しかし今後、パンデミックが終息したとしても「働き方が昔に戻ることはない」(鵜澤氏)。むしろ、さらなる多様化と自由度が高まっていく。そこでは「人間の能力では管理できない複雑性が増していく。そこでカギを握るのが『データとテクノロジーの活用』だ」と鵜澤氏は指摘する。

 例えば、移動時間の削減やコミュニケーションロスの防止を目的に、オフィスのレイアウト変更やテレワークの推進など、ワークプレイス改革に1億円をかけたとする。だが、「きちんとデータを分析してアクションを取らない限り、『どの施策が効いているのか』が分からず、単発で終わってしまう」と鵜澤氏は警鐘を鳴らす。データの収集・分析は「これまで正しいと思っていた固定観念から脱することにもなる」(鵜澤氏)ともいう。

 ワークプレイス改革に生かせるデータは多岐にわたる。(1)健康診断や従業員エンゲージメントの結果などのサーベイデータ、(2)基幹系を中心とする既存システムから抽出できるオペレーショナルデータ、(3)勤怠情報や社内ポータルなどの利用状況を示すエクスペリエンスデータ、(4)オフィス環境や雰囲気など物理的な状況を可視化したフィジカルデータなどだ。

 これらデータを掛け合わせることで、「新たな課題解決の可能性が広がる」と鵜澤氏は強調する。これらデータの取得も、様々なツールの登場で容易になっている。「今は取得できるデータの宝庫だ。だが闇雲にデータを集めても意味はない。ワークプレイス改革でも、ビジネス同様に、仮説を立てて検証するというプロセスを回していくことが大事だ」と鵜澤氏は強調する。

 多様化する働き方の変化に追随できるよう、企業はデータを活用し職場環境を変えていく必要がある。そのことが生産性や企業価値の向上につながっていく。

DIGITAL X DAY 2022 Online Liveオンデマンド

EY アジアパシフィック ピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表 パートナーの鵜澤 慎一郎 氏による講演「人的資本経営の実現に向けデータを活用したワークプレイス変革を」