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  • 成果を最大限に引き出すワークプレイスのあり方

人的資本経営の実現に向けデータを活用したワークプレイス変革を

「DIGITAL X DAY 2022〜働き方改革を実現する『 チームビルディング 』」より、EYの鵜澤 慎一郎 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年1月30日

経営価値と社会的価値の源泉は人的資本価値にあり、人的資本価値を考えるうえで重要になるのがワークプレイスの整備である。EY アジアパシフィック ピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表パートナーの鵜澤 慎一郎 氏が、2022年12月に開かれた「働き方改革を実現する『チームビルディング』~パフォーマンスを最大化するワークプレイスのあり方~」(主催:Digital X)の基調講演に登壇し、人的資本経営の実現に向けた近未来のワークプレイスのあり方を提言した。

 「これまで民間企業は企業価値として“経済価値”に注目してきたが、今後は“社会的価値”も同時に高めなければならない。いずれの価値も、それを実現するのは人であり、人的資本価値が重要になってきた」−−。EY アジアパシフィック ピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表パートナーの鵜澤 慎一郎 氏は、人的資本経営が注目される背景を、こう語る。EYは“Big4”と呼ばれる会計系ファームで初めてパーパス(目的)を掲げたコンサルティング会社である。

写真1:EY アジアパシフィック ピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表 パートナーの鵜澤 慎一郎 氏

 人的資本価値を高めるためになすべきこととして鵜澤氏は、「構成要素は種々あるが、なかでも人材力の強化と並んで職場環境(ワークプレイス)の整備が重要だ」と強調する。そのワークプレイスの整備には、「組織風土(カルチャー)など目に見えないものから、働き方、健康経営(ウェルビーイング=幸福感)といった要素を改善し最適化していく必要がある」(同)と指摘する。

人的資本経営に向けた変革の成功率を高める6つのドライバー

 人的資本価値を生かす人的資本経営は“人”を中心に据える経営手法である。その重要性を示唆する資料として鵜澤氏は、EYと英オックスフォード大学サイード・ビジネススクールによる共同研究を挙げる。両者は日本を含む先進23カ国の2000人を対象に、変革の成否を左右する人的要因に関するアンケート調査を実施した。

 同調査から浮かび上がってきたのは「組織変革においては、経営幹部も従業員も『エモーショナルジャーニー』と呼ばれる“感情の揺れ”を強く経験していたこと」(鵜澤氏)。変革への取り組みの当初は「面白い」という気持ちが高くても、さまざまな局面で負担を感じるとモチベーションが下がってしまうという経験だ。それを「V字回復し高めていけるかどうかが企業変革には重要だ」と鵜澤氏は指摘する。

 その成功率を大幅に高めるための主要ドライバーとして同調査は、(1)ビジョン:動機づける、(2)感情面のサポート:寄り添う、(3)テクノロジー:醸成する、(4)プロセス:奨励する、(5)リーダーシップ:主導する、(6)文化:協働するの6つを導き出した(図1)。

図1:変革の成功を促進する6つの主要ドライバー。いずれもが“人”を中心に据える

 6つのドライバーが示しているのは、「どんな変革プロジェクトにおいても“人”が中核をなすということだ」(鵜澤氏)。調査結果では、人を中核に据えた変革を実行している組織と、そうではない組織では、成功率に2.6倍の差があった。

 人的資本経営が求められる理由は、トヨタ自動車と米テスラの経営状況にも現れている。トヨタの売上高が9000億ドル超、従業員数が37万人であるに対し、テスラの売上高は約2400億ドル、従業員数は10万人。2021年のグローバルでの販売台数はトヨタの約1049万台に対し、テスラはトヨタの10分の1である。にもかかわらずテスラの時価総額はトヨタの5倍だ。

 これらの数字に対し鵜澤氏は、「財務的な評価ではあり得ない話だ」と強調する。財務価値でみれば、売上高も従業員数も販売台数もトヨタが圧倒しているからだ。つまり、「今は人的資本価値が、財務価値よりも高く評価される時代」(同)なのだ。

 こうした動きに合わせて日本政府も、人的資本に関する情報開示を促し始めている。2024年3月期の決算からは強制開示になる。人的資本の情報開示は欧州で先行しており、先進企業は40~50項目を開示している。日本の上場企業は「現状、30項目以下の会社がほとんどで、項目数が充足していない。今後は大幅に開示していく企業が増えていく見込みだ」(鵜澤氏)という。