• Column
  • 目指すべきDXの実現に向けた内製化のススメ

DXがシステム内製化を求める理由と実施策

齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)
2023年3月24日

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進展するなか、システム開発の内製化を指向する企業が増えています。DXによって生み出す新事業や新サービスを、より顧客ニーズに合わせて改善し続けるためには、これまでのように外部に開発を委ねることが難しいのが、その理由です。一方でDX関連人材が不足しているのも事実。確実かつ効率的な体制の整備が求められます。

 システム開発における内製化とは、外注やアウトソーシングなどによって外部に委託してきたシステム、主にソフトウェアの開発業務を自社内で実施することです。昨今は、クラウドサービスなどを利用したシステム構築が増えてきたこともあり、開発と運用の一体的な管理が容易になってきています。そのためソフトウェアを開発した後の運用までも内製化の対象にするケースもあります。

 内製化の必要性は従来から指摘されてきました。ですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが各所で進むなかで、その声がより強まりました。IPA(情報処理推進機構)が2022年10月に発表した『DX白書2021』も、「ユーザー企業においてDXが進展すると、従来からの受託開発と、内製との使い分けが重要になる」と指摘しています。実際、内製化に取り組む企業が増えて始めています。

 内製化の対象は大きく、新事業全体や業務プロセスを含むシステム全体と、そうしたシステムの使い勝手を改善するアプリケーションとに分けられます。後者においては、ノーコード/ローコード開発ツールなどを使った、いわゆるエンドユーザーコンピューティングあるいは市民開発(Citizen Development)としての広がりを見せてもいます。

 ノーコード/ローコード開発ルーツは、プログラミング言語を直接記述しなくても、部品として用意される機能をGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)上で組み合わせてソフトウェアを開発する仕組みです。必ずしもエンドユーザーコンピューティングを対象にしたツールではありあませんが、現場スタッフによる業務プロセス改善やデータ分析ツールとしての利用が先行しているようです。

 以下では主に、前者の新事業全体や業務プロセスを含むシステム全体の内製化を想定し、話を進めます。

品質重視のウォーターフォール型の開発スタイルが限界に

 ではなぜ、DXへの取り組みが進展すれば、内製化の重要性が高まってくるのでしょうか。そもそも内製化への取り組みについては、日本と米国で顕著な差があることが指摘されてきました。

 『DX白書2023』(IPA、2023年2月、https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html)では、事業戦略や業務システムなどの領域において、外部リソースをどのように利用しているかを聞いています。同白書によれば、米国において「コア事業/競争領域」を「内製による自社開発」とする回答は5割以上を占めます(図1の右)。それ以外の領域では「外部委託による開発」や「既製のソフトウェアやSaaS(Software as a Service)の導入」のほうが回答率は高くなりました。

図1:外部リソースの活用方法における日米の違い(『DX白書2023』、IPA、202年2月、P.123)

 一方の日本では、いずれの領域においても「既製のソフトウェアやSaaSの導入」「外部委託による開発」のほうが「内製による自社開発」よりも回答率は高くなっています。ソーシング手段の傾向は「コア事業/競争領域」であっても「ノンコア事業/非競争領域」であっても同じです。

 こうした違いの背景には、日本におけるシステム開発が、効率や品質をより重視しており、そのためにウォーターフォール型(V字モデル)の開発スタイルが一般的に浸透していることがあります。

 ウォーターフォール型での開発には、領域や業務ごとに作業を分担することでシステム開発の効率や品質を高めやすいという特徴があります。結果、日本のシステム開発では、企画や要件定義、設計までは社内で実施し、以後のコーディングから実装、テストまでの開発業務をシステム子会社やシステムインテグレーターに委託するスタイルが一般的になってきたのです。

 しかし、DXを推進し新規事業のためのシステムを早期に投入したり、顧客ニーズに合わせてアプリケーションを改善したりしようとすると、ウォーターフォール型は十分に機能しなくなってきました。スタートアップ企業が採用している「Start Small、Fail Early、Learn Fast(小さく始め、早期に失敗し、早く学ぶ)」といった事業スタイルでは、よりアジャイル(俊敏)なシステム開発体制が求められるからです。

今なら本連載『目指すべきDXの実現に向けた内製化のススメ』のPDF冊子が無料でダウンロードできます。