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- 製造DXの最前線、欧州企業が目指す“次の一手”
スイスSika、建設業のDXをスマホアプリや3Dプリントなどで支援
スイスSikaサービス 法人建設・特定市場コンクリート 市場開発マネジャー カーステン・リーガー氏
スイスのSikaは建設用コンクリートや工業用化成品のメーカー。主要顧客である建設業界は、温室効果ガス削減や労働人口不足といった課題に直面している。そのためSikaは、新たなコンクリートに加え、工期の最適化を図るスマートフォン用アプリケーションなどを開発し提供する。スイスSika Servicesで法人建設・特定市場コンクリート 市場開発マネジャーを務めるカーステン・リーガー氏が、「Industrial Transformation Day」(主催:DIGITAL X、2023年1月)に登壇し、近年の取り組みや今後の挑戦について解説した。
「建設業界は非常に保守的だ。例えばコンクリート分野では100年以上同じ工程で作業しており、現場には多くの作業者が必要だ。自動化は進んでおらず、昨今は熟練工も不足している」――。スイスSika Servicesで法人建設・特定市場コンクリート 市場開発マネジャーを務めるカーステン・リーガー氏は、同社の主要顧客である建設業について、こう指摘する(写真1)。Sikaは建設用コンクリートや工業用化成品の開発・販売会社である。
建設業界は非効率であり多くの材料をムダにしている
建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)として昨今、注目されている技術に3D(3次元)プリンティングがある。だが「3Dプリンティングの最初の特許は1930年代に取得されている」(リーガー氏)。にもかかわらず工法は、「型枠を置き、鉄筋を入れて型枠を閉じ、コンクリートを流し込み、固まったら型枠を外すという流れは大きく変わっていない」(同)
工法だけでなく、普段目にする建物も「古い常識に囚われている」とリーガー氏は問いかける。例えば、四角い窓が多いのは「製造コストが安いから」(同)。だが建築の観点から見れば、「角はストレスが掛かり、ひび割れが起こりやすい形状だ」(同)という。
建築に使われているレンガの大きさも、「人が扱えるような大きさを基本にしているため」(リーガー氏)。これを「ロボットが扱うことを前提にすればサイズを変えてもいいはずだ」(同)。躯体の強度を増すために実際には使用しない場所にコンクリート材料を大量に流し込んでもいる。リーガー氏は、「建設業界は非効率的な生産方法に終始し、多くの材料を無駄にしている」と課題を投げかける(図1)。
そんな建設業界が取り組むべき大きな課題としてリーガー氏は、(1)サステナビリティ(持続可能性)、(2)デジタル化、(3)最適化の3つを挙げる。
具体的には、コンクリートの生産は世界のCO2排出量の約8%を占めており、地球環境のためのCO2削減には相当の努力をしなければいけない。デジタル化では、新しい建設手法や建設現場の自動化、建設プロセスや材料をモニタリングするためのソフトウェアが重要になっている。最適化では、建築現場の単位時間当たりの生産性を高めながら建造物を長持ちさせることが求められる。
主要顧客である建設業のDXをテクノロジーで支援
当然、建設業界も、それぞれがDXに取り組み、これら課題の解決に当たっている。Sikaとしては、主要顧客である建設業のDXを支援するための製品やサービスの開発を進めている。
対サステナビリティ(持続可能性)
Sikaの主力製品であるコンクリートを使った建造物は、30~50年の寿命を迎えると解体され、その廃材は埋立地に搬送されるのが一般的だ。一方で、多くの国では建築のための砂や骨材が不足している。そこでSikaが考案した技術が「reCO2ver」である。コンクリートの解体廃棄物から高品質の砂や骨材を取り出し新しいコンクリートに再生する。
並行して、骨材の周囲にあるセメントペーストを炭素化し二酸化炭素を埋め込むことにも成功している。リーガー氏は「コンクリート分野の循環経済を形成しながらCO2排出量を削減する」と話す。
リーガー氏による講演動画「建設DXに向けたスイスSikaの取り組みと挑戦」をこちらで、ご覧頂けます。