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- 製造DXの最前線、欧州企業が目指す“次の一手”
EUの「Digital Decade」、2030年までにAIとビックデータで活性化
EC 「DG CONNECT」産業エコシステムDX部門長 ゴシア・ニコウシュカ氏
EU(欧州連合)の執行・政策決定機関であるEC(欧州委員会)は、EUの産業活性化に向けて2030年を目標にしたデジタル施策「Digital Decade(デジタルの10年)」を推し進めている。ECの産業エコシステムDX部門長であるゴシア・ニコウシュカ氏が、「Industrial Transformation Day」(主催:DIGITAL X、2023年1月)に登壇し、EUのビジネス領域におけるデジタル変革と、そのためのECの役割について解説した。
「EU(欧州連合)の産業をグローバルに競争力のあるものにし、単一市場での堅牢性を高めたい。そのためにグリーン経済とデジタル経済の2方面での変革を目指す。パンデミックやウクライナ侵攻など前例のない課題に直面しても、これらの優先事項は依然として重要だ」――。EC(欧州委員会)の通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG CONNECT)産業エコシステムDX部門長のゴシア・ニコウシュカ(Gosia Nikowska)氏は、ECの委員長であるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏の言葉を借りながら、EUのデジタル施策「Digital Decade(デジタルの10年)」について、こう語る(写真1)。
10年間でEU全体にデジタル技術を浸透させる
Digital Decadeは、2020年から2030年の10年間を対象にした産業政策である。この10年間にデジタル技術や対応力を高めるために取り組む4分野を掲げるのが「デジタルコンパス」だ(図1)。
これら4分野では、それぞれに具体的な目標を立てている。
スキル(能力)の目標 :基礎レベルと最先端レベルの両面でデジタル技術の不足を補う。最低でも80%がデジタルのスキルを有する
インフラ(Infrastructures)の目標 :デジタル時代にふさわしい、弾力的で堅牢であり、そしてEUの価値を尊重したデジタルインフラを確保。全世帯に通信速度がギガビット/秒の回線の敷設を目指す
行政DX(Digitalization of Public Service)の目標 :デジタル変革により公共サービスが十分な恩恵を得ること。主要な公共サービスの100%オンライン化を目指す
ビジネスDX(DX of business)の目標 :2030年にはEU企業の75%がクラウド、AI、ビッグデータなどの先進技術を利用する。中小企業の90%以上が、基本的なデジタルレベルに到達する
これらの目標を達成するため、「本来はパンデミックに対応するために設立した『復興レジリエンス基金(Recovery and Resilience Facility:RRF)』のうち20%はデジタルトランスフォーメーション(DX)に使う必要があると判断した」(ニコウシュカ氏)という。
EUは今、直近だけでなく将来的に見ても、大きな課題を抱えている。直撃しているエネルギーコストの高騰とサプライチェーンの混乱である(図2)。
ECのライエン委員長は一般教書演説で、「現在のエネルギー危機から脱却することがEUの最優先課題の1つだ」と述べた。EUの製造業が使っているガスのコストは「米国の7倍以上で、エネルギー価格の上昇が生産コストと利益率に悪影響を及ぼしている」(ニコウシュカ氏)。
一方で、「温室効果ガス排出量の少なくとも55%を2030年までに削減する」こともEUの重要な目標の1つだ。EUは、グリーントランスフォーメーション(GX)に多額の投資を行っている。つまり、EUの製造業はエネルギー使用量を最小限に抑えつつ、得られる効果を最大限に発揮できるようにする必要がある。
ニコウシュカ氏による講演動画「EUの産業競争力強化に向けたデジタルトランスフォーメーション〜デジタル時代に向けた準備はできているか〜」をこちらで、ご覧頂けます。