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スイスIMD、製造業も「デジタルディスラプション」への備えを

IMD Global Center for Digital Business Transformation Researcher and Advisor 横井 朋子 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年8月4日

デジタル技術によって生まれた商品/サービスが既存の商品/サービスの価値や市場を破壊する「デジタルディスラプション」。その影響をスイスのビジネススクルIMDが2年に1度の頻度で調査している。IMDのGlobal Center for Digital Business Transformationで研究する横井 朋子 氏が、「Industrial Transformation Day」(主催:DIGITAL X、2023年1月)に登壇し、最新の調査結果を製造業がおかれている状況について解説した。

 「デジタルディスラプションの影響はまだ小さいが、今後迫られる新しい競争に勝ち抜くための準備ができていない」――。製造業におけるデジタルディスラップションの影響について、世界的なビジネススクールであるスイスIMD(International Institute for Management Development)の橫井 朋子 研究員 兼 アドバイザーは、こう指摘する(写真1)。

写真1:スイスIMDのGlobal Center for Digital Business Transformationで研究員 兼 アドバイザーを務める横井 朋子氏

 ディジタルディスラプションとは、デジタル技術が生んだ商品/サービスが、既存の商品/サービスが持つ価値や、その市場を破壊してしまうこと。IMDは、その影響を14の主要産業を対象に2年に1度、調査している。対象は世界70カ国の企業の役員で、回答者の3分の2以上が取締役以上の役職に就き、半数以上はB2B(企業間)の分野に携わっている。調査結果は、予測不能な自然界の渦にたとえ『Digital Vortex(デジタルの渦)』として公表されている。

 横井氏は、同調査から5つの質問を取り上げ、それぞれに対する回答から、デジタルディスラプションの現状や、製造業における影響などを分析し解説した。

問1:今後5年間に業界はどのくらい変化するか?

 ディジタルボルテックスについて横井氏は、「2019年から2021年の間に、ほとんどの業界が渦の中心に近づいている」と説明する(図1)。特に中心に近づいているのが小売りと教育の分野だ。コロナ禍を背景に「eコマースの成長が加速し、教育分野のデジタル化を引き起こした」(横井氏)と分析する。

図1:2019年から2021年の間に、ほとんどの業界がデジタルボルテックスの中心に近づいた

 デジタルディスラプションの影響を受けやすい業界のトップ5は、メディア&エンターテインメント、小売り、通信、テクノロジー製品&サービス、金融サービスと、2017年以降変わりない。だが横井氏は「順位など相対的な位置づけは、やや変化している」とする。

 デジタルボルテックスの中心に近づくことは、ビジネス改革の必要性が加速していることを示す。回答者の41%は、「競争のプレッシャーにより、3年ごとに組織改革を余儀なくされている」ことを認識。回答者の23%は「組織改革を毎年実施する準備ができている」と回答している。

 その中で製造業は、まだ渦の外縁に留まっている。「当面、デジタル化の流れの中でも、既存利益の享受が可能なことを示している」と横井氏は言う。だがデジタルボルテックスの外縁にいる業界も、渦の中心には向かっており、新しい競争戦略を開発する必要がある。「多くの企業は過去から受け継いだコスト構造とバリューチェンに悩まされており、近代のデジタルディスラプター(ディジタル技術を駆使する破壊者)との競争に必要なインフラや構造を構えられていない」と横井氏は指摘する。

橫井 朋子 氏による講演動画「Digital Vortex:デジタルディスラプションの最新状況と製造業の今」をこちらで、ご覧頂けます。