- Column
- 製造DXの最前線、欧州企業が目指す“次の一手”
スイスIMD、製造業も「デジタルディスラプション」への備えを
IMD Global Center for Digital Business Transformation Researcher and Advisor 横井 朋子 氏
問4:ディスラプションの変化は加速しているか?
デジタル戦略への課題はあるものの、デジタルディスラプションが与える影響に対しては多くの企業が前向きな考え方を示している。「プラスの影響を享受できる自信がある」とする回答が、「心配している」という回答を上回っているからだ。もっとも「メディアや金融サービスなどデジタルボルテックスの中心に近い業界は、マイナスの影響を受ける可能性を懸念している」と横井氏は説明する。
では製造業に与える影響はどうか。製造業の回答と、医療・製薬の回答、金融サービスの回答を比較してみると、「デジタルディスラプションによる変化は加速する」との回答は、医療と金融に比べ低いものの、半数を超える(図4)。横井氏は、「幸い、大半の組織の経営幹部が『心配なテーマ』として捉えられており、約4割の組織が意識的にデジタルディスラプションの脅威を削減するための対応に取り組んでいる」と話す。
問5:同業他社と比較した対応状況は?
この問に対する製造業の取り組み例として横井氏は、デジタルガバナンスを取り入れた企業を2社、紹介する。その1社が、タイヤメーカーの仏ミシュランだ。
ミシュランは、安さを売りにするアジアのタイヤメーカーとの激しい競争に直面していた。加えて、米Amazon.comや中国アリババなどの巨大デジタルプラットフォーマーによる物流変革、さらにはカーシェアリングなど自動車業界の新しいビジネスモデルの登場などへの対応を迫られていた。
そのために、「顧客を中心とした経営の簡易化と、新しいビジネスモデルの導入を推進する戦略」(横井氏)を採用。IoT(モノのインターネット)技術を使った「コネクテッドモビリティソリューションの開発により、2030年までにタイヤ以外の活動収益を20~30%にすることを目指している」(同)という。
そのための主な原動力がデジタルである。戦略の推進においては、従業員の再教育やリスキリング、スキルを持つ人材の採用などで新しい開発能力を確保しながら、「デジタルチームを設置し、企業全体のデジタルイニシアティブを調整する役割を担わせるように整備したほか、デジタルファクトリーを設立し、IoTやデジタルイノベーション、AI(人工知能)技術を使ったサービスの開発に注力している」と横井氏は話す。
もう1社は、180カ国に拠点を持つオランダのビールメーカー、ハイネケンだ。同社はグローバルチームを設置し、主にB2B(企業間)ビジネスの領域でDXを推進してきた。その一方で、クラフトビール業界に参入するための新会社BEERWULFを立ち上げ、B2C(企業対個人)ビジネスのためのEC基盤を展開するために「ハイネケン本体とは独立したデジタルアーキテクチャーを構築した」(横井氏)という。
BEERWULFは、企業としては独立しているものの、「その業績などについてはハイネケン本社の役員チームがレビューしている」(横井氏)。だが横井氏は「デジタル化に関してアーキテクチャーなどの独立性があることが、とても重要だ」と指摘する。同社は現在、11カ国でビジネスを展開し、さらなる事業拡大が期待されている。
横井氏は、「IMDの調査から、組織全体のデジタル戦略を開発することの重要性が理解し、これからのDXの取り組みに是非、役立ててほしい」と改めて訴えた。
橫井 朋子 氏による講演動画「Digital Vortex:デジタルディスラプションの最新状況と製造業の今」をこちらで、ご覧頂けます。