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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

再考ERP、変化の時代が求める“複合型意思決定”に向けて【第1回】

東 裕紀央、船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2023年11月13日

サプライチェーンの最適化には複合的なデータ活用が必須

 では、なぜデータに基づく複合型の意思決定が必要なのか。より具体的なビジネスに即して考えてみよう。昨今、サプライチェーンの最適化は多くの企業にとって大きな課題の1つである。だがそれは、エンドツーエンドでデータを取得・活用できる基盤がなければ実現できないことが多い。

 特に、生産と販売の連携はニーズが高い。需要変動が激しくなったり変化のスピードが高まったりしているからだ。生販連携を実現するためには、過去の売り上げ実績だけでなく受注情報などをリアルタイムで活用して顧客ニーズを把握することで近未来の需要を予測し、生産計画に迅速に反映・実行する必要がある。

 特定の製品について需要増の兆しが見えれば、サプライヤーに、その需要予測をいち早く伝え増産に動いてもらったり、自社での設備投資や人的リソースのタイムリーな確保につなげたりができる。結果として、生産コストを最適化しつつ、過剰在庫や品切れによる機会損失といったリスクを極小化できる。

 あるいは、顧客ニーズを見ながら注力する商圏をA国からB国に変更したり、販売ターゲットを大手企業から中小企業に変更して製品戦略をアップデートしたりといった取り組みも、よりスピーディーに進められるようになる。

 こうした環境が整備できないと逆に、どんなリスクがあるのだろうか。例えば、生販が連動していない企業では、営業部門が自らの売り上げのみを追求し「お客様のためには納期遵守率100%を達成すべきで、まず在庫がなければ営業できない」という発想になりがちだ。

 一方の生産部門では未だに、設備の稼働率をKPI(重要業績評価指標)にしているケースが散見される。販売計画がどれだけすざんでも、設備の稼働率が高ければ良しとするわけだ。結果として莫大な在庫を抱えることになる。

 売り上げをアップさせる、あるいは設備の稼働率を高めるために部分最適を進めても、経営視点での効果は限定的だ。むしろ全社の利益を阻害する場合すらある。

ESG経営や人材戦略も財務パフォーマンスと連動させる時代に

 企業経営における重要課題として今後、よりフォーカスされるであろう領域でも複合型の意思決定は欠かせない。例えば、ESGの取り組みが財務パフォーマンスにどのような影響を与えているのか、定量的な評価・分析ができる企業が競争優位性を発揮する時代が近づいている。

 ベーシックな取り組みとして、まずはESG関連のKPIと企業価値評価のKPIについてデータ上の相関をみていく必要があるだろう。そのためにはサプライチェーンや人事などにおける各種の非財務情報、各事業部の取り組み結果のデータを組み合わせながら、中長期でのビジネスにどのような影響があるかを評価していく必要がある。

 ESGを含めた統合的なデータ活用は、ビジネスイノベーションにつながる可能性もある。ESGリスクを避けた原材料や素材の情報と、顧客セグメントの情報を掛け合わせることで、新製品の開発やマーケティング施策に生かし、新たなマーケットセグメントを創出する事例も出てきている。

 ダイバーシティや従業員エンゲージメントに関するデータについても、財務データと連動して把握したいというニーズが高まるだろう。優秀な人材の確保・育成やダイバーシティ&インクルージョンの推進に向けた投資を単にコストとしてとらえるのではなく、どのような財務パフォーマンスに貢献しているのか、人的資本データも含めて労働生産性を把握することで、事業戦略と人材戦略との連動が可能になる。

ERPと「データのバケツリレー」には大きな差がある

 上述したように、複合的な意思決定の重要性が高まっているのは間違いない。そのための全社データを統合する基盤としてERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)を位置付けるべきである。なぜならERPは、会計、調達、在庫、サプライチェーン、人事など、さまざまな事業活動から、横断的かつ共通した定義、一貫した基準に沿ってデータを収集・集約するからだ(図2)。

図2:「ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)」は、企業が持つ資源を集約し管理・活用する考え方および、そのための仕組みを指す

 「既存システムから必要なデータを集めてくれば、ERPと同じような形でデータを活用できるのではないか」という指摘があるかもしれない。しかし、部門ごとに最適化されたシステムのデータを集約する“データのバケツリレー”では、時間がかかるうえに、データがこぼれたり溢れたりしてデータの“鮮度と品質”が低下する。そのプロセスに関わる従業員も疲弊するだけに、タイムリーな意思決定の役には立たない。

 部門横断的にデータを収集・主役できるERPだからこそ、有用なインサイト(知見)を得られる。データ集約のためのワークロードを削減するとともに、ビジネスの状況をより正確に判断し、より最適な意思決定につなげられる。

 次回はERPの基本的な機能や導入効果について解説する。

東 裕紀央(あずま・ゆきちか)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部 部長

船橋 直樹(ふなばし・なおき)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部