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- データドリブン経営に向けたERP再入門
再考ERP、変化の時代が求める“複合型意思決定”に向けて【第1回】
ERPは「Enterprise Resource Planning」の頭文字を取った略語である。日本語に直訳すれば「企業資源計画」であり、経営を変えるためのツールだ。DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた“データドリブンな意思決定”のための基盤としてERPの重要性が高まってきている。今回は、その背景について解説する。
企業の経営環境の変化は、業種を問わず加速するばかりである。ビジネスはグローバルに広がり、サプライチェーンの課題は多岐にわたる。金利や物価の動向は先行き不透明で、地政学的な混乱も続いている。少子高齢化が進む日本では人材不足も長期的な重要課題である。ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)、すなわち環境や社会に配慮し、企業統治を向上させるという観点も経営に不可欠な視点になっている。
加えて、テクノロジーの急速な進歩がディスラプター(破壊者)を生み、市場のプレーヤーやビジネスモデルの新陳代謝を加速させている。
経営環境を変える要素が増加する中ではデータに基づく意思決定が重要に
こうした経営環境の変化に対応するためには、ビジネスのバリューチェーン全体を俯瞰し、顧客や競合の状況も把握したうえで、自らの方針を決めなければならない。つまり、意思決定に影響を与える要素が増加し、それぞれの変化が加速している中では“複合型の意思決定”を下す必要がある(図1)。
複合型の意思決定とは“全体最適”を志向することとほぼ同義である。だが“全体最適”という言葉が安易に使われ過ぎており、現実感を伴わない理想論として扱われる場面が多いと感じられる。そうした状況を鑑み、本稿では“複合型の意思決定”と表現している。
複合型の意思決定のためには、現状を示すデータを基に、影響を与える要素それぞれの因果関係を解きほぐしたうえで、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の動かし方を決めて実行する。その結果がビジネスに、どのように影響したかを最新のデータで把握し次の一手を打つ。この繰り返しにより、ビジネスを継続的にアップデートしたり新たなビジネスモデルを創出したりすることが求められている。
「データ活用なんて昔からやっている」という声もあるだろう。しかし、その多くは部門単位での“部分最適”なデータ活用に留まってはいなかっただろうか。そうした取り組みでは最早、本質的な課題は捉えられず、根本的な対策を打ちづらい。部門単位の事業方針を定めるにしても、全社の事業ポートフォリオを見ながらデータを基に複合的な意思決定を下すほうが効果的なことは言うまでもない。
データの役割は、部門横断で連動するための血液のようなものである。販売、生産、財務、人事などのデータを企業全体で連携し、現状をリアルタイムに近い状態で把握しながら、最適な打ち手をタイムリーに実行していくことが現代のビジネスには不可欠なのだ。