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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

複合型の意思決定のためのERPシステムの基本構造と導入効果【第2回】

東 裕紀央、船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2023年12月12日

アーキテクチャーを進化させ企業システム“柔軟性”をより高める

 上述した構造が実現されているのはアーキテクチャーの進化によるものだ。従来のERPシステムの多くは、種々の機能を密結合した“1つのシステム”として提供されてきた。「モノリシック(一枚岩)」とも表現される。

 モノリシックなシステムでは、標準機能に含まれていない新しい要件が発生した際、それに対応するための新規開発や改修が難しい。システム導入時に機能をカスタマイズしていると、それが標準のアップグレードの障害になるケースも多かった。最新技術を取り込む難易度が上がり、システムの陳腐化も早まってしまう。

 こうした課題の解決策として「コンポーザブル(必要な機能単位で組み換え可能)」なアーキテクチャーを持つERPシステムも登場している。疎結合のアプリケーション構造を持ち、統一されたデータモデルを維持しながら、モジュールを必要に応じて追加したり変更したりができる。これにより、部分的・段階的なERPシステムの導入が可能になる。

 加えて、ERPシステムに対し、特定の機能のみを変更・改修したり、新機能を既存機能への影響を抑えながら安全・短期間に追加したりもできる。AIなどの最新技術の取り込みも容易になる。すなわち、経営環境の変化に対峙する企業情報システムに“柔軟性”を提供できると言える。

 周辺システムとのデータ連携環境が充実してきている。例えばIoT(Internet of Things:モノのインターネット)システムとの連携などが可能になる。IoTデータをサプライチェーンシステムやワークフローに組み込み、製品の平均受注処理時間や納期を短縮するといった事例が国内外で散見される。

 近年は企業の基幹システムにおいてもセキュリティ対応への重要度が増している。内部不正による情報漏えい対策や、急増するランサムウェアへの対応など、セキュリティで考慮すべき点は多岐にわたる。そのため最新のERPシステムには、多層防御によるデータ中心のセキュリティ機能を備えているものもある。セキュリティが基盤機能として提供されているシステムを選択することでERPシステム全体でのセキュリティの強化が期待できる。

図2:ERPシステムとしてのセキュリティー・災害対策が強化されている。図は米オラクルのクラウド環境での取り組み例

業務の標準化・可視化が品質向上や業務改善につながる

 こうしたアーキテクチャーや構造を持つことでERPシステムは、業務領域を問わず、業務の標準化を進めやすくし、誰もが業務プロセスを理解できるための可視化を促進する。それによる一般的な導入メリットをいくつかを挙げる。

 業務の標準化により業務手順が明確に定義されることで、作業の抜けや漏れ、重複が起こりにくくなり、業務のガバナンスが向上する。チェックや修正、手戻りの頻度が小さくなれば業務効率の向上も期待できる。標準化された業務プロセスに基づき業務をできる限りERPシステム上で遂行すれば、作業やアウトプットの品質向上に合わせ、品質のバラツキを押さえられる。

 さらに、特定業務が属人化しブラックボックスになることを防げる。業務の継続性を担保しやすくなる。業務プロセスが可視化できれば、無駄な作業が見えるようになり、業務改善につながるという効果も期待できる。

 新しいビジネスモデルへの対応力を高められるのも重要な視点である。グローバル展開されているERPシステムであれば、世界標準のベストプラクティスに基づくビジネスプロセスが標準テンプレートとして提供され、かつ定期的にアップデートされる。そうしたベストプラクティスを採用すれば、最新の知見や技術を取り込んだ業務フローを早期に確立できる。経験のないビジネスにチャレンジするための最適な業務フローを事業会社自身が定義することはなかなか難しい。

 今回は「ERPとは何か」にかについて、そのシステム構造と導入メリットの概略を説明した。次回は日本におけるERP活用の歴史と現状を見ていく。

東 裕紀央(あずま・ゆきちか)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部 部長

船橋 直樹(ふなばし・なおき)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部