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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

ERPは「複合型の意思決定」を実現するデジタルビジネス基盤である【第6回】

船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年4月16日

生成AI技術の活用にはデータマネジメントやインフラも重要に

 こうしたメリットを享受するためには、ビジネスに適した生成AI技術が使いやすい形でERPシステムに組み込まれていることが重要である。多くの企業にとって、生成AIで自然言語処理を担う大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)を独自開発することは現実的ではない。かといって利用者が、業務で必要になるたびに外部の生成AIサービスを連携させるような使い方では、手間やコストがかかり過ぎ、活用できる知見と導入効果も限定的になってしまう可能性が高い。

 第2回において、世界標準のベストプラクティスを活用できるERP製品を選ぶことが成果を高められると説明した。同じことが生成AIの活用においても言える。各種の業界・業務の知見やデータ活用の知見を基に、ビジネスに最適な生成AIを業務プロセス全体に組み込み、新たなユースケースを機能の向上・拡充に継続してつなげている製品/サービスを採用することが、ERPシステムと生成AI技術の相乗効果を高めるのには有用だ(図2)。

図2:ERPシステムへのAI技術の組み込みが進んでいる。図は米オラクルの取り組み例

 大規模言語モデル(LLM)を自社のユースケースに最適化するには、自社のデータやナレッジを追加学習させる「ファインチューニング」を施すのが1つの方法である。そのためには強力なコンピューティングパワー、具体的にはGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)リソースが必要になる。

 だが生成AI活用への注目が高まる中、GPUの供給不足が指摘されている。十分なGPUリソースを、いかに適切なコストで確保できるかは、多くの企業にとって目下の大きな課題だと言える。

 LLMそのものに追加学習させなくても、自社データなどをLLMが活用できるかたちに整えるベクトル化により、固有のナレッジに基づいたアウトプットを実現する「RAG」という技術も登場している。ただRAGを使うにしても、ベクトルデータベースの選定や実装をどう進めるべきかには、少なくない企業が頭を悩ませることになるはずだ。

 生成AIを含む幅広いAI活用が当たり前になるこれからのERPでは、これらの課題を解決してくれる支援サービスやソリューションにアクセスしやすいかどうかも、製品選定の大きなポイントになる(図3)。

図3:アプリケーションとしてのERPだけでなく、それを支えるAI技術やデータマネジメント、コンピューターリソースなども加味した検討が必要になる。図は米オラクルの例

 例えば米オラクルは、GPUベンダーの米NVIDIAとアライアンスを結びGPUリソースをSaaSと同じクラウド基盤で提供したり、企業向けLLMベンダーのCohereとのパートナーシップによるLLMをERPシステムなどに組み込んだりしている。ERPのデータを管理している「Oracle Database」においても、非構造化データのベクトル化やRAGへの対応を進めている。

ERPは変化し続けるためのベストプラクティスや最新技術を提供

 日本の産業界は今、2024年2月22日に日経平均株価が最高値を更新するなど、世界的に注目度が高まっている。一方で、国際競争力の低下やガラパゴス化、生産性の低下を指摘する声は根強い。日本が真の意味で経済の長期低迷から脱するためにも、各企業がDXを積極的に推進する必要があるだろう。

 そこでは、「勘と経験が全て」「全体最適が苦手」といったカルチャーから卒業し、データドリブンな複合型の意思決定に転換する必要がある。そのためのデジタルなビジネス基盤としてのERPシステムの導入は、もはや不可欠になりつつある。つまり、ERPはDX推進において非常に重要なピースの1つなのだ。

 ERPシステムを業務システムの1つだと理解するだけでなく、グローバルでのベストプラクティスや、AIなどの最新テクノロジーを継続的に取り込み、世の中の変化に柔軟に対応し自社の競争優位を継続的に獲得するためのデジタルビジネス基盤として理解し投資する。そうした視点が、これからの企業経営には従来にも増して重要になっている。

船橋 直樹(ふなばし・なおき)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部