• Column
  • シン・物流、DXで変わるロジスティクスのこれから

梱包サイズの標準化が宅配ボックス活用や新たなビジネスモデルにつながる【第19回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年10月10日

荷物の「三辺長」の概念が宅配ボックスの導入スキームを明確に

 この宅配便で用いられている「三辺長」という概念は、物流効率を考えるうえで便利な概念です。再配達の削減策として、マンションなどの集合住宅に宅配ボックスを設置するケースを例に取れば、サイズ別の対応を考えることで、その導入スキームが容易に可視化できます。

 一般に宅配便は、地域センターから営業所に持ち込まれた後、各世帯に配達されます。在宅であれば配達終了です。不在の場合、三辺長が120センチメートル以下なら、標準的な宅配ボックスが利用でき、そこに投函されます。集合住宅のエントランスだけでなく、各世帯の玄関前に置ける可動式の宅配ボックスを使えば玄関先にまで届けられます。置き配の併用も考えられます(図1)。

図1:宅配便荷物の三辺長の使い分けによる設置スキーム

 他方、三辺長が120センチメートル以上の荷物は、エントランスなどに大型荷物に対応した宅配ボックスが設置されていれば、そこに投函されます。大型荷物に対応した宅配ボックスがなければ当然、再配達の対象になります。

 このスキームで不在再配達になるのは、三辺長が120センチメートル以内であってもチルド・生鮮品、三辺長120センチメートルを超えるチルド・生鮮品、大型宅配ボックスに入らないサイズの荷物、置き配ができない荷物に限られます。三辺長が120センチメートル上の荷物は、宅配便全体に占める個数が少ないため、エントランスに設置する宅配ボックスのサイズの見直しで対応できる可能があります。

 加えて宅配便の事業会社が、図2のような物流デジタルプラットフォームを構築することで、輸送効率を高め、不在再配達のさらなる削減が可能になります。

図2:再配達の削減につながる物流デジタルプラットフォームの例

 このプラットフォームでは、着荷主(受取手)の会員登録を進め、出荷データとして大手EC(電子商取引)事業者などの情報を取り込むことで、配達予定日を事前通知し、必要であれば配達直前まで受け取り日時・場所の変更を可能にして再配達率の低減を図ります。配達先情報として、利用可能な宅配ボックスの有無や種別、各ボックスに付されている登録番号を加えれば、さらなる効率化が可能でしょう。

配送ロボットや物流ドローンなどのビジネスモデルにも影響

 宅配便の誕生当初、三辺長は料金体系の重要な骨格に位置付けられました。その位置付けは現在も変わりません。しかし、ビッグデータの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な浸透などを受け、荷姿を数値化するための重要な指標になってきています。

 例えば、荷物やトラックの情報が可視化されても、荷姿の情報が可視化されていなければ、今回取り上げた宅配ボックスも、なかなか効果的に活用できないという事態が発生してしまいます。荷姿の可視化を推進していくうえでは三辺長の活用が重視されるのです。

 三辺長は、宅配便業界が本格導入に動いている配送ロボットや物流ドローンの利用においても重要な意味を持ってきます。配送ロボットや物流ドローンを使った宅配便の自動化において荷姿は、これまで以上に重要な要件になるからです。

 既に宅配便最大手の米フェデックスは自動運転配送ロボットの導入に向けて動き出しています。国際宅配便大手の独DHLは物流ドローンの活用を進めています。これら自動化ツールの特性に合わせ、取り扱う荷物の三辺長の範囲を工夫し
荷姿を限定する新しいビジネスモデルが出てくることは十分に考えられます。

 そこでは、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社による寡占という図式が崩れ、例えばフードデリバリーに特化する形で、スタートアップ企業が参入してくる可能性があります。それは同時に、宅配便というビジネスモデルのさらなる進化をも意味します。宅配便の荷姿を、よりタイトに標準化することが、トラックドライバー不足や不在再配達に対する有力な施策につながるでしょう。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。