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医薬品物流におけるドローン配送の活用【第21回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年11月7日

鉄道やトラックなどに続く物流の手段として、ドローンの活用に大きな期待がかかっています。一般に物流では、荷物の特性に応じて輸送モードを変えることがよくあります。ドローンにおいても、その物流特性を踏まえて、相性のよい貨物を選ぶ必要があります。そこで注目されるのが緊急性の高い医薬品の輸送です。今回は、医薬品輸送におけるドローンの活用について説明します。

 ドローンは今、その利用用途が急激に拡大してきています。ただドローンを物流領域で活用するにしても、やみくもに荷物を運ぶのではなく、その特性に踏まえ、相性の良い貨物を選ぶ必要があります。例えば、比較的リードタイムが長く大ロットの荷物なら船舶を用いるのが効果的です。短リードタイムで、きめ細かな荷扱いが必要な半導体のような荷物なら航空輸送が向いています。

 そうした観点からドローンによる物流において注目されるのが、緊急性の高い医薬品輸送です。医薬品輸送の多くは、ある程度のロットを確保したうえで定期輸送です。しかし見逃せないのが、緊急出荷、緊急輸送の多さです。急患などの発生については、その予測が不可能であるだけに、「緊急に医薬品が必要になった」「十分に在庫を確保していたが不測の事態が発生した」といったことが少なくないのです。

 特に、配送先が離島や遠隔地である場合、あるいは都市部でも深夜など輸送手段の手配に時間がかかる場合、これまではやむを得ず緊急輸送が見送られたケースもあります。そこで注目されるのがドローン輸送なのです。

 なお医薬品の輸送では、緊急性とともに、温度管理や品質管理も必要になります。ですが小ロットの医薬品輸送であれば、電源・充電が不要な温度ロガー(記録装置)付きの空冷ボックスを用いれば、製品の安全性も担保できます。(図1)

図1:医薬品輸送の物流特性とドローンには高い親和性がある

世界各国で増えるドローンによる医薬品輸送

 医薬品のドローン輸送では、海外では既に成果を上げている事例が報告されています。例えば米国のスタートアップ企業「Zipline(ジップライン)」は、ルワンダやガーナ、ナイジェリアといったアフリカ諸国で、血液やワクチン、抗生物質などの輸送サービスを展開しています。

 道路事情が悪く、交通手段の選択肢の少ない環境にドローン輸送が適合したこともあり、Ziplineは年間、数万件のドローン輸送を実施しています。ルワンダでは、トラックなら数時間かかるところをドローンを使って15~30分程度に短縮し、同国内の病院など医療施設に隈なく輸送できるネットワークを確立しています。

 ちなみにZiplineのドローンは、豊田通商が日本国内での実用化を進めています。長崎県五島列島の福江島に輸送拠点となるドローンポートを設け、五島列島全域をカバーする輸血用血液製剤の輸送網の構築を目指します。

 先進国でもドローンは医薬品輸送にとって、なくてはならない選択肢になりつつあります。欧州では、スイスポストが病院間の緊急医薬品輸送を実施しています。アルプス山脈という山岳地帯を抱えるだけに、医薬品の緊急輸送へのドローン活用が効果的なのでしょう。アイスランドでは首都レイキャビックにおいて、交通手段が限られることからドローンによる医薬品輸送などが実施されています。

 米フロリダ州ではドラッグストアチェーンのCVS Healthが物流企業のUPSによる処方薬輸送サービスを高齢者住居地域を対象に始めています。温度管理に対応し、緊急性の高い医薬品を広域で迅速に届けられるとしています。