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共同物流に向け梱包統一を図るフィジカルインターネット構想【第20回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年10月24日

トラックドライバー不足などに起因する「物流の2024年問題」が大きな社会問題になっていますが、その対策の1つとして、国家レベルの業界横断型で取り組みが進んでいるのが「フィジカルインターネット」構想です。梱包・物流容器を統一・標準化し、ロジスティクスプラットフォームによる共同物流を推進します。今回は、フィジカルインターネット構想について説明します。

 「フィジカルインターネット(Physical Internet:PI)」とは、データ通信のためのインターネットの仕組みを物流・ロジスティクス領域に概念的に転用していく考え方です。エリック・バロー氏(パリ国立鉱業高等学校教授)や、ブノア・モントルレイユ氏(米ジョージア工科大学教授)などが提唱しました。

 両氏らは2011年、Logistics Research誌に掲載された論文『Towards a Physical Internet: Meeting the Global Logistics Sustainability Grand Challenge』で、フィジカルインターネットを定義。インターネットのメタファー表現としてロジスティクス領域におけるフィジカルインターネットのビジョンを設計・開発することを提案しています。

学界や産業界、政府間の学際的コラボレーションも必要

 インターネットではWeb状に張り巡らされたネットワークを活用し、送信側から受信側に情報がパケット単位で伝達されます。これを物流・ロジスティクス領域に当てはめ、コンテナやパレットを“物理的なパケット”に見立て、標準化された倉庫などの拠点(インターネットの「ノード」に相当)と緻密な輸配送ルート(「リンク」に相当)を設定することで最適化を図ります。倉庫や輸配送ルートはシェア(共有)できるようにし共通インフラとして広く開放します。

 論文では併せて、その実装にあたっての影響と要件も説明しています。国や地域、大陸にまたがる、学界や産業界、政府間の学際的なコラボレーションの必要性も説かれ、強調されています。また同名の書籍が2014年、フランス語版(紙媒体とデジタル媒体)と英語版(現時点ではデジタル媒体のみ)で発売されています。

 日本におけるフィジカルインターネットの導入については、『SIPスマート物流サービスの取組み』(2020年9月17日、国土交通省、物流政策検討会 資料)の中で触れられ、作業生産性の向上、トラック積載率の向上、在庫量の削減、トレーシング強化が達成すべき目標として挙げています。物流ネットワーク全体の共同化・標準化に向けた取り組みを国も支援しているのです。

 同資料は、現行のサプライチェーンが、製造業・卸売業・小売業の間でデータの多くが未連携だとし、生産予測困難、伝票不統一、不動在庫、仕入れ予測困難、作業員・販売員不足などの課題が山積されていると指摘。その解消に向けて、省力化・自動化に資するデータの自動収集技術や、「SIPスマート物流サービス」による物流・商流データ基盤の構築が重要な研究開発項目になっています。データ収集では、荷台情報や作業情報、重量・採寸情報などが対象です。

 ちなみにヤマトグループ総合研究所は、ジョージア工科大学フィジカルインターネットセンターとの間で、フィジカルインターネットを通じた日本における革新的な物流システムの構築に関する覚書を、またエリック・バロー氏が所属するパリ国立高等鉱業学校と相互情報交換の覚書を、それぞれ締結しています。