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共同物流に向け梱包統一を図るフィジカルインターネット構想【第20回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年10月24日

コンテナ、ハブ、プロトコルを標準化

 フィジカルインターネットの主要構成要素は、(1)標準化されたコンテナである「PIコンテナ」、(2)ルーターに相当する「PIハブ」、(3)コンピューター通史心を模した“物流のためのプロトコル”である「OLI(Open Logistics Interconnection)」の3つです(図1)。

図1:フィジカルインターネットの主要構成要素

 PIコンテナは、フィジカルインターネットに対応するように設計された輸送コンテナを指します。モントレイユ氏らが命名しました。グローバルに標準化されたスペックとして、例えば2.4メートル×2.4メートルのモジュール寸法が提案されています。これを新しい物流容器とした梱包の統一化を全世界で実現することが理想です。

 PIコンテナは、道路や鉄道上に設けるPIハブを経由し、荷役と輸送の効率を高めます。PIハブには、鉄道輸送からセミトレーラーなどのトラック輸送に、あるいは逆にトラック輸送から鉄道輸送に切り替える「バイモーダルゾーン」と、鉄道輸送のみを選択する「ユニモーダルゾーン」があります。例えば、貨物を積載した鉄道車両が到着すると、セミトレーラーが道路輸送用ゾーンに駐車し、PIコンテナの積み込みを待ち、標準化された割当て時間に基づいて作業します。

 OLIは、コンピューター通信の世界標準であるOSI(Open Systems Interconnection)同様に、7階層モデルを採っています。下位から順に、物理(道路網など)、リンク(輸送サービスなど)、ネットワーク(輸配送ネットワークなど)、ルーティング(輸配送ルート選択など)、輸送/運送(輸配送/運送品質)、カプセル(荷姿)、ロジスティクスWeb(運賃・料金などを含めた運送契約など)です。

 なお日本での展開においては、4トントラックの横幅が約2.3〜2.5メールであるため、PIコンテナは日本式のアレンジが必要になるかもしれません。セミトレーラー輸送についても、欧米諸国はともかく、トレーラー輸送が十分に活用されているとは言い切れないため、標準的な輸送モードとして活用できるかどうかは議論が必要です。

共通プラットフォームの構築では障壁も

 PIハブに対し、トラック輸送と鉄道輸送をリンクさせていくことから、「モーダルシフトの進化型」ととらえる欧米の研究者もいます。ベルギーのハセルト大学のトマス・アンブラ客員教授などは、「モーダルシフト(インターモーダル)輸送からシンクロモーダル(同期化)輸送に発展していくことになる」とするオランダやベルギーの研究者グループの考え方を支持しつつ、シンクロモーダル輸送とフィジカルインターネットの融合を提唱しています(図2)。

図2:シンクロモーダル輸送とフィジカルインターネットのリンク

 その実現にあたっては、オープンサプライチェーンネットワークの構築、PIハブネットワークの情報システムの統合、サプライチェーンフルビジビリティ(完全可視化)の実現など、デジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みとの連動も不可欠です。

 サプライチェーンにおけるDXや、荷役作業の負担軽減化などを念頭に置いたパレット荷役のさらなる推進などが注目を集める中、フィジカルインターネットは時流に合った発想だと言えます。ただ、シンクロモーダル輸送を実現するための巨大なPIハブインフラの建設や、コンテナやパレットのグローバルでの標準化、DXを念頭においたサプライチェーンの完全可視化など、完成への障壁は少なくありません。

 特に、共通基盤になるプラットフォームの構築には相当の時間がかかると考えられます。その実現までには今後、相当の紆余曲折があるかもしれません。しかし、まずは特定の産業から部分的な導入を始め、その規模を次第に拡大し、物流効率のレベル向上を図っていくならば、本格導入への道も開けていくことでしょう。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。