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医薬品物流におけるドローン配送の活用【第21回】

鈴木邦成(日本大学教授)、中村康久(ユーピーアール技術顧問)
2024年11月7日

携帯電話システムとの連携やAIがドローンの活用を後押し

 こうしたドローン活用が進展している背景には、ドローンと携帯電話システムの連携強化があります。ドローンが全自動で運航するためには、GPS(全地球測位システム)などで取得した自己位置情報を正確に把握し、機体の制御や運航システムに反映する必要があります。搭載するカメラで撮影した映像や画像をリアルタイムに送信したいというニーズも高まっています。

 しかし、携帯電話システムは原則、地上での利用が前提でした。ドローンが地上と同じ周波数を使って通信すると、地上の携帯システムと混信するリスクがあるからです。そこで規制緩和により、携帯電話を上空でも利用できるように環境が整いつつあります。無線LANなどに比べ、より広いエリアでの機体の制御や通信が可能になるのです。

 そうした環境変化もあり、物流領域でのドローンの活用への期待が高まっているのです。上述したZiplineのルワンダの医薬品輸送も、その運航インフラには携帯電話システムを活用しています。

 さらに、独ドイツポスト傘下のDHLや米国系のUPS、さらには米Amazon.comなどは、ドローンとAI(人工知能)技術の組み合わせの可能性に着目し、実用化に取り組んでいます。

 具体的には、ドローンにAI技術を搭載し、複数の配送先への経路や配送先である顧客の優先順位などを選択しながら配送するというスキームが現実になりつつあります。ドローンに輸送ルート最適化のアルゴリズムを組み込み、人間による操縦を必要としない自律的な飛行を実現することで、遠隔地や離島への円滑な配送が可能にするのです。

技術革新が物流へのドローン活用の課題を解消していく

 今後、医薬品を入口にドローン輸送が、さらに本格化していく可能性は相当に高いと言えます。少子高齢化によるドライバー不足の解決策として、物流ドローンの導入・活用は有力な選択肢です。

 ただ、さらなる普及に向けては課題もあります(図2)。まず現状では、導入に多額の投資が必要になることです。ドローンの機体に加え、ドローンポート(離発着・充電などのためのステーション)の建設、操縦・監視などの情報システム構築、保守・メンテナンス体制が不可欠だからです。操縦者のトレーニングやドローン操縦士の国家資格取得なども必要です。

図2:日本におけるドローン輸送の本格導入に向けた課題

 また日本では、医薬品輸送にドローンを活用することに対して、「安全性からの不安」を抱く医療関係者や消費者も少なからず存在するかもしれません。ドローンが天候不順などの理由で墜落し、危険薬物などが機外に流出するリスクや、流出した場合の責任の所在も明確にする必要があるでしょう。導入にあたっては十分な説明責任も発生します。

 ほかにも、航空法に基づく航空規制や個人情報保護法などの改正なども必要になってくるはずです。もっともドローンに関する技術は日進月歩で進化しています。上述した課題も、携帯無線システムの例のように、さらなる技術革新により、遠くないうちに解消されるのは間違いないでしょう。

鈴木 邦成(すずき・くにのり)

日本大学教授、物流エコノミスト。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。主な著書に『物流DXネットワーク』(中村康久との共著、NTT出版)『トコトンやさしい物流の本』『シン・物流革命』(中村康久との共著、幻冬舎)などがある。

中村康久(なかむら・やすひさ)

ユーピーアール株式会社技術顧問。工学博士(東京大学)。NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル、ドコモUSA、NTTドコモを経て現職。麻布高校卒業後、東京大学工学部計数工学科卒業。元東京農工大学大学院客員教授、放送大学講師。主な著書に『Wireless Data Services-Technology, Business model and Global market』(ケンブリッジ大学出版)、『スマートサプライチェーンの設計と構築』(鈴木邦成との共著、白桃書房)、『シン・物流革命』(鈴木邦成との共著、幻冬舎)などがある。