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顧客と直接つながるD2Cビジネスの価値【第1回】

堀田 顕人(電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ)
2024年2月5日

デジタル技術の進展がD2C事業の展開を容易に

 これらのD2C事業の特徴を可能にしているのが、デジタル技術の進展・普及です(図2)。インターネットの普及やECの進化により、メーカーは製品/サービスをオンラインで顧客に直接提供できるようになりました。顧客もPCだけでなく、スマートフォンを使って、時間や場所の制限を受けることなく、製品/サービスをオンラインで購入・決済できるようになりました。

図2:デジタル技術の進展・普及がD2C事業を容易にした

 ソーシャルメディアの進化も大きな要因です。「Facebook」や「X(旧Twitter)」「Instagram」といったソーシャルメディアの普及により、多くの情報が瞬時に広がり、生活者は容易にコミュニケーションを取れるようになりました。

 そこには、知り合いや友達による“口コミ”やインフルエンサーなどの“お薦め”があふれ、生活者は多様な意見や好みの情報に触れ、自分自身の好みを、より意識的に形成するようになりました。結果、自らが望む製品/サービスの購買やリピート購入につながっています。

 一方、メーカーの側では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げた新たな挑戦として顧客データ活用への期待があります。デジタルプラットフォームの普及により、顧客の行動データを基にした需要予測や、在庫管理や生産プロセスの最適化などが進んでいます。従来型の卸売や小売りが在庫を保管・管理するのではなく、メーカーが需要を予測し、顧客に製品/サービスを適切なタイミングで直接届けることが可能になったのです。

生活者や市場の変化への柔軟な対応こそが競争力に

 D2C事業は今後も拡大し、テクノロジーの進化と生活者や市場の変化に柔軟に対応できた企業が、競争力を維持・向上し成長していくことでしょう。そこでは、次のような事象が市場獲得のキーを握ると考えられます。

オン/オフを統合した顧客中心のオムニチャネル展開

 D2C事業においても、オンラインとオフラインの両チャネルを活用するオムニチャネル戦略を打ち出し、多様な販売チャネルを組み合わせることが一般的になるでしょう。オン/オフを切り離すのではなく、オフラインでの接触や体験のデータをオンラインでのデータと突合することで、両者を融合し顧客ごとに最適な体験の提供が可能になるからです。

 例えば、オフラインストア(リアル店舗)は商品展示のみとし、購入はすべてオンラインへ誘導したり、オフライストアでの履歴データや店員へのアンケート・質問情報をオンラインの購入データなどと突合したりすることで、生活者に対するブランド価値をオン/オフと分けずに提供できるようになります。

テクノロジーのさらなる統合

 D2C事業で重要な技術/システムには、ECサイトの構築/運用や顧客データの収集・分析、デジタル広告配信などがあります。これらが、それぞれに機能強化されると同時に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのテクノロジーの統合が進み、製品/サービスのカスタマイズや生産プロセスの効率化が一層進むと考えられます(図3)。認知や集客時の効率・最適化、購入後の継続・リピートへのスムーズな移行も進むでしょう。

図3:テクノロジーの進化と生活者や市場の変化への柔軟な対応が求められる

個人情報保護の法規制

 GDPR(General data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)や個人情報保護/プライバシーの観点から、顧客データの取り扱いや個人情報保護法に関する法規制が広がっています。顧客のインターネット上での行動データの取得や処理に関して、より慎重な対応が求められるケースが増えてきました。

 法規制の影響からWebブラウザでのクッキー規制を強化する傾向にあり、オンラインでの個人データ収集が制約を受け始めています。各社は、法規制を遵守しつつ、顧客に対してデータ収集の目的や活用方法を透明かつ理解しやすい方法で説明し、顧客の同意を得る必要があります。

持続可能性の強調

 持続可能性への関心が高まりつつあるなか、D2Cブランドは製品の生産から環境への影響までを含め透明性を重視する傾向が強まるでしょう。すでに、顧客の環境に対する意識の高まりや、法的規制の厳格化による製品の製造・包装・廃棄・サプライチェーンでの透明性向上などから、持続可能性を考慮する必要性が高まっています。

 今回はD2C事業の狙いや背景などについて説明しました。次回からは、D2C事業を立ち上げるために知っておくべき「5W3H」について、大事な順番で紹介していきます。

堀田顕人(ほった・あきと)

電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ。マーケティングやコミュニケーション領域を対象にしたプロジェクトマネジメント専門会社で不動産やスポーツマーケティングなど幅広い業界の大規模プロジェクトを経験。雑貨・文具プロダクトの事業会社ではブランドマネジメントから広報やEC運営、SNSなど集客からCRMまでのコミュニケーション全般における戦略立案・施策実施業務に従事。現在はD2C事業の立ち上げ・事業計画策定からサイト構築、グロース支援などを幅広く担当している。