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顧客と直接つながるD2Cビジネスの価値【第1回】
D2C(Direct to Consumer:消費者直接取引)は、メーカーが卸売りや小売りといった流通業を介さずに顧客に製品/サービスを直接販売する事業形態です。顧客に関する、さまざまなデータを直接、収集・分析できるため、より顧客が求める商品の提供が可能になります。今回は、D2C事業が増えている背景や、その特徴、今後の傾向などについて紹介します。
D2C(Direct to Consumer:消費者直接取引)は、メーカーが製品やサービスを、卸売や小売業者などの流通を介さずに、顧客に直接提供するビジネスモデルです。例えば、化粧品やアパレル業であれば、顧客1人ひとりの好みに合わせてカスタマイズした商品をEC(電子商取引)サイトで販売するなどです。
D2C専業メーカーも増えていますが、従来の流通を介して製品を販売してきたメーカーが、顧客と直接的な関係を継続的に築くことを最大の目的に、D2C事業にビジネスモデルを転換する例が増えています。
顧客ニーズの多様化に直接対応したいメーカーが増える
なぜ今、D2C事業に取り組むメーカーが増えているのでしょうか。その最大の理由は、生活者視点による顧客ニーズの個別化です。
インターネットの浸透に伴い、生活者は多くの情報を得られるようになりました。結果、自らの好みやニーズの選択肢が広がり、画一的ではない製品/サービスを求める傾向が強まっています。メーカーにしても、各種データから顧客ニーズを細かく把握できるようになってきたため、顧客ニーズに、より柔軟に応えたいと考えるようになりました。
D2C事業には、従来の卸や小売りを経由する事業と比べ、メーカーが自ら立ち上げられるため、市場への参入の容易さや、事業立ち上げの速さ、ハードルの低さといったメリットがあります。事業立ち上げにかかる投資も比較的ミニマムから始められるため、事業収支・投資回収期間の短さやリスク管理の観点からも参入が容易になっています。
D2C事業には、従来型の既存事業を長らく継続してきたメーカーが参入するケースも少なくありません。必ずしも既存事業が不調なわけではなく、新しい顧客開拓や販路づくり、商品ラインナップの拡充、収益事業の構築のほか、社内の強みとなる資産づくりや人材育成など、企業の将来的な維持・存続・発展を見据えて、D2C事業を立ち上げているのです。
D2Cにより顧客との関係性をより直接的に
D2C事業の特徴は、メーカーが自社ブランドを一貫して直接管理し、顧客と直接コミュニケーションすることで、よりスピーディーな製品開発が可能になることです(図1)。個々のメリットを説明します。
(1)ブランドの直接管理
D2C事業における「ブランド」は、製品やブランドメッセージを直接管理し、顧客と直接コミュニケーションすることで構築します。広告やECサイト、ソーシャルメディアなどを自社で一貫して管理することで、商品開発や設計、物流、認知から見込み顧客化、購入、その後のリピート・推奨まで、他社の行動や取り組みに左右されることなく、一貫したブランド体験を提供できます。
(2)データドリブンのパーソナライゼーション
顧客データの収集・分析により、個別の顧客に合わせた製品/サービスの告知・紹介、購入後の使用体験情報を提供できます。認知や集客におけるデジタル広告では、顧客の属性・ニーズといった個別データに合わせた広告配信が可能になります。製品/サービスの企画・開発においても顧客ニーズを踏まえた開発・改善ができます。
(3)アジャイルな製品開発
顧客や市場のニーズ・変化の情報を直接かつリアルタイムに得られます。変化の情報を製品開発に生かせるため、製品/サービスの開発・改善のアジャイル化が図れ、新製品/サービスを素早く市場投入できます。
新製品や限定製品などのテストも一部の顧客だけを対象に実施しやすくなります。小規模なテストで得られたデータがあれば、本格的な市場展開の前に、製品/サービスや事業戦略の最適化が図れます。自社のECサイトだけではなく、クラウドファンディングでテスト販売をするような食品メーカーや電気機器メーカーなども登場しています。
(4)顧客からの直接のフィードバック
メーカーは顧客のフィードバックを直接受け取れるため、製品/サービスの改善が容易になります。その前提として、製品/サービスの購入者向け問い合わせ窓口やコンタクトセンター、ECサイト上のチャットボットなどを設置し、顧客からのフィードバックを受け取りやすくするための体制を構築する必要があります。
得られた顧客からのフィードバックは、製品/サービスの企画や開発、製造、ECサイト/広告の運用など、それぞれの担当部署に共有し、商品の改善や、より良い顧客とのコミュニケーションに活用します。
(5)透明性と信頼性
D2Cは透明性・信頼性が重視されます。生産プロセスや原材料に関する情報を顧客と共有することで、製品/サービスの品質・安全性に対する信頼感を築きます。卸売りや小売りを介していないことも価格への透明性につながります。