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WHY:ブランドパーパスと事業戦略。なぜD2C事業を行うのか?顧客や社会に必要とされる理由が必要【第3回】

堀田 顕人(電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ)
2024年4月8日

一人の想いがみんなに届く熱いメッセージ

 パーパスとビジョン、ミッションは密接に関連しています。パーパスがD2C事業の価値観を示し、ビジョンが将来の方向性を示し、ミッションが日々の業務における具体的な目的を示します。それぞれをバランスよく組み合わせることで、事業や顧客に対して社内外の関係者のチーム全体が一丸になり、長期的な成功を達成するための指針を確立できます。

 D2C事業が持つべきパーパスやブランドメッセージは、どこの事業にもあるような聞きなれた言葉や万人に広く大きく受け入れられるような言葉だけではなく、一人の担当者や責任者の“熱い想い”が込められていることが重要です。

 単なるビジネスの一環ではなく、一人の人間としての情熱や信念が事業に影響を与え、独自性を生み出します。一人の強い想いが事業の原動力になり、その情熱は商品やサービスに反映されます。そして、その想いや体験が本質を伝え、共感を呼び起こします。さらにその共感は、別の一人につながるという自然な形で、他の顧客ともつながりを広げていきます。

 D2C事業にあっては、まずは一人の顧客に愛着を感じてもらえることが、多くの顧客に愛されるための第一歩です。まさに「一人に好きになってもらう」ことから始まるのです。

 その際、D2C事業では最初から多くのターゲット顧客を狙い過ぎない方が得策です。その理由の1つに効果的なターゲティングの難しさがあります。大多数に響くようなメッセージを発信し、広告やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで認知・集客してしまうと、「どのターゲット顧客に、どのようなメッセージが響いたのか」を検証できず、多くの費用を投下したのに実は効果があまり出ないという事象が起きてしまいます。

 まずは、想定する顧客ターゲットに響くメッセージを打ち出し、検証を積み重ねていくことで、顧客の継続的なファン化と、そこから広く多くの人に共感を呼ぶような事業への拡大の足がかりを作っていきます。

パーパス・ビジョン・ミッションと事業戦略を一体化

 D2C事業のパーパス・ビジョン・ミッションが明確になれば、それらと事業戦略とを一体化させることが不可欠です。パーパス・ビジョン・ミッションが魂を形成し、戦略がその魂を具現化します。中でも市場での差別化の根幹になるのが(1)事業戦略立案と、(2)ターゲット顧客の特定です。

差別化の根幹1:事業戦略の立案

 事業戦略の立案時に利用できる代表的なフレームワークを紹介します。フレームワークに当てはめれば、すべてができるわけではありませんが、初めて事業戦略を立ち上げる際には参考にしてみるとよいでしょう。

SWOT分析 :自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を把握します。内外の状況を理解したうえで戦略の方針を決定します。

AS-IS分析とTO-BE分析 :現状のビジネス状況(AS-IS)を詳細に分析し、将来のビジョン(TO-BE)を描きます。この対比分析を通じて、事業戦略の具体的な目標と進むべき方向性を確認します。

3C分析 :自社(Company)、顧客(Customer)、競合他社(Competitor)の3Cを総合的に分析します。市場での差別化ポイントや戦略の着眼点を見出します。

ビジネスモデルキャンバス :顧客セグメント・価値提案・チャネル・顧客関係・収益の流れ・主要リソース・主要パートナーシップ・主要活動・コスト構造の9つの要素を1つの視覚的な“キャンバス”上に表現し、企業のビジネスモデルを包括的かつ理解しやすくします。本ツールは、アイデアの検証や新しいビジネスモデルの設計、既存ビジネスモデルの改善など、さまざまなビジネスプロセスで活用できます。

差別化の根幹2:ターゲット顧客の特定

 D2C事業では、ターゲットになる顧客層の特定が重要です。これにより戦略的なマーケティングや製品開発が可能になります。パーパス・ビジョン・ミッションに基づき、競合他社との差別化ポイントを見出します。製品やサービスの独自性が、顧客にとって真に魅力的な存在になります。市場やターゲットを決めるフレームワークとしては、STP分析が有用でしょう。

STP分析 :市場セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3要素からマーケティング戦略を立案します。

 市場セグメンテーションは、顧客を異なるグループやセグメントに分けるプロセスです。一様でない市場を、より小さな、同質なグループに分割し、それぞれのセグメントの特性を理解します。

 ターゲティングは、特定のセグメントに焦点を当て、特定の顧客層に最も効果的にアプローチするための対象市場を選定し、決定するプロセスです。

 ポジショニングは、ブランドや製品が他社との差別化を図り、顧客にとって独自で魅力的な価値提案を確立するプロセスです。

 繰り返しになりますが、D2C事業の展開では、事業のパーパス・ビジョン・ミッションと事業戦略を無理なく結びつけることが鍵になります。パーパス・ビジョン・ミッションを軸に、顧客や市場・社会、競合や社内の変化に柔軟に対応し、顧客との深い関係を築いていくことがD2C事業の持続的な成功につながります。

 次回は、5W3Hのうちの「WHAT」、すなわち、D2C事業を通じてどのような商品/サービスを顧客や社会に届けるかについて説明します。

堀田 顕人(ほった・あきと)

電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ。マーケティングやコミュニケーション領域を対象にしたプロジェクトマネジメント専門会社で不動産やスポーツマーケティングなど幅広い業界の大規模プロジェクトを経験。雑貨・文具プロダクトの事業会社ではブランドマネジメントから広報やEC運営、SNSなど集客からCRMまでのコミュニケーション全般における戦略立案・施策実施業務に従事。現在はD2C事業の立ち上げ・事業計画策定からサイト構築、グロース支援などを幅広く担当している。