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WHY:ブランドパーパスと事業戦略。なぜD2C事業を行うのか?顧客や社会に必要とされる理由が必要【第3回】

堀田 顕人(電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ)
2024年4月8日

前回は、D2C事業のための「5W3H」において最も重要な「WHO」を取り上げ、D2C事業を成功に導く人材とチームづくりについて紹介しました。今回は「WHY」、すなわち「なぜD2C事業に取り組むのか」ついて説明します。

 前回の「WHO」では、社内メンバーと顧客、社外パートナーとのチーム作りについて紹介しました。そうしたチームが作れれば、次に取り組むのは「WHY」、すなわち「なぜD2C事業を始めるか」であり、その背景・目的・目標を明確にすることです。

 あなたがD2C事業の担当者だとして、社内の他部署のメンバーや顧客、社外パートナーから「なぜD2C事業を始めたのか」「何を目的としているのか」「何を目指しているのか」などと聞かれた場合、どのように答えるでしょうか。D2C事業の推進には、これらを明確にすることが特に大切です。

D2C事業には顧客との“共感”が不可欠

 D2C事業の立ち上げのきっかけは、社内の誰かの一言や上司からの指示かもしれません。あるいは業務効率の向上や競争優位性の確立などを背景にしたDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みの一環の場合もあるでしょう。しかし、それら企業側の内部事情は顧客には一切関係ありません。

 特にZ世代(1996から2012年に生まれた世代)を中心に「顧客は納得することで消費につながる傾向がある」と言われています。従ってD2C事業では、顧客に対する説明責任を果たし、透明性を提供することが求められます。価値観の共有や社会的な影響に焦点を当てることで、顧客は単なる商品の購入以上の体験や共感を得られ、それに納得したうえで消費に至ります。

 つまり、DXの背後にある企業側の事情だけではなく、D2C事業において「なぜ顧客や社会に必要なのか」を顧客や社内のメンバー、外部パートナーにしっかりと伝え、共感を生み出していくことが不可欠です。

 なによりD2C事業は、顧客と直接コミュニケーションをし、長期の関係性を構築することに適しています。D2C事業を成功に導くには、顧客を中心に社内外の関係者と深い関係を築き、さまざまな世代の人々の納得と共感を得られなければなりません。そのためには、パーパス(目的)、ビジョン(展望)、ミッション(使命)が必要になります(図1)。

図1:顧客らの共感を得るには、D2C事業におけるパーパス(目的)、ビジョン(展望)、ミッション(使命)が不可欠

パーパス(Purpose:目的)

 企業や事業の存在理由や社会的な影響を示すもので、「なぜ、その企業や事業が存在しているのか」「何を追求しているのか」を表現します。顧客だけでなく、社内のメンバーや外部パートナーに対しD2C事業の持つ価値観や信念を共有し、チーム全体に統一感をもたらします。

 パーパスは「WHY(なぜ)」に焦点を当て、ビジョンやミッションよりも抽象的で、より広範な視点を提供します。事業全体が持つべき永続的な原則や目的を示し、戦略や業務の具体的な側面には触れません。

ビジョン(Vision:展望)

 将来の理想的な状態を描くものであり、D2C事業が目指すべき方向性を示します。D2C事業の成長や発展に対する指針となり、顧客や社内のメンバー、外部パートナーに未来の展望を提供します。

 ビジョンは「将来の理想」に焦点を当て、より明確で具体的な目標を設定します。通常は、中長期的な時間軸での成果や状態を描き、事業の戦略的な方針に影響を与えます。

ミッション(Mission:使命)

 D2C事業の具体的な目的や使命を表現し、日々の業務や行動指針に影響を与えます。社内メンバーに対してはD2C事業の目標に貢献する手段を提供し、顧客や社外パートナーに対してはD2C事業の存在価値を伝えます。

 ミッションは「何をするか」に焦点を当て、日常の業務や行動において、どのような価値を提供するかを示します。具体的で実践的な方針を表現し、ビジョンやパーパスを実現する手段となります。