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- 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方
富士フイルムが情報基盤「DTPF」を使って海外展開するヘルスケアビジネスの可能性【第4回】
現地との対話で生まれた案をアジャイル開発で早期に検証し実現へ
一方、各地域が抱えるヘルスケア領域の社会課題の解決につながるユースケースの具現化に向けて、イメージング・インフォマティクスラボでは、研究者を現地に派遣している。NURAの関係者だけでなく、現地で活動する日系企業やグローバル企業、ローカル企業と積極的にコミュニケーションを図りながら、DTPFの活用効果が見込まれるユースケース案を積極的に提案している。
ユースケース創出を進める上でも有効なのがアジャイル開発だ(第2回参照)。イメージング・インフォマティクスラボとNURAのメンバーの議論を通じて、有用性が見込まれると判断した案は基本、プロトタイプを早期に開発し検証するというサイクルを素早く回していく。トライ&エラーを積極的に重ねる中で、NURAとDTPFの優れた連携事例が早期に数多く創出されると考える。
DTPFの機能面では、(1)あらゆるユースケースに共通する機能と(2)個別のユースケースに特化した機能とを、ある程度分けて開発を進めている。前者は、健診データの利用について「受診者から利用承諾を得て、その履歴をブロックチェーン上に記録する」機能などが相当する。今後想定される多様なユースケースに対応するために、開発効率を高めるのが目的だ。
複数のユースケースが具現化された際に、DTPFの安定的な運用・保守を実現するための仕組みづくりにも注力している。
ブロックチェーンに基づくDTPFで情報流通のあり方を変える
NURAは今後、アジア以外の新興国への展開も視野に、2030年をメドに100施設規模への拡大を目指している。NURAの施設数が増えるということは、それに比例して受診者が増え、さらに膨大な健診データが集積されることを意味している。疾患の有無を問わず、これだけ、さまざまな国や地域の人々の健診データが集積されるケースは世界でも極めてまれなケースになる。
NURAの健診データだけでなく、他の医療機関の受診データや、受診者が日常的に身に付けているスマートウオッチなどのウェアラブルデバイスが収集する生体データなど、より多様なデータが、DTPF上でひも付けられるようになれば、集積されるデータは質・量の両面で飛躍的に高まっていく。
一方、受診者にとっても、自らの健診データを自らの意志で第三者に直接提供できるという意味で、いわゆる“データの民主化”を実現できる可能性がある。健診データの提供意思の管理や匿名性の担保、データ提供に伴う課金情報の管理なども、ブロックチェーン技術に基づくDTPFであれば担えるだろう。
このようにNURAとDTPFの連携は、より多様でユニークなヘルスケアビジネスを創出する源泉になり、ヘルスケア情報のサプライチェーンを大きく変革させられる可能性がある。当社としては“ヘルスケア情報のプラットフォーマー”としての役割を担うことを期待する。
次回は、DTPFの開発について、中長期の展望について説明する。

守田 正治(もりた・まさはる)
富士フイルム メディカルシステム事業部モダリティソリューション部 新規ビジネスグループ統括マネージャー。2005年富士フイルム入社。2010〜2016年 FUJIFILM Middle East(ドバイ)にて中東・アフリカにおけるメディカルシステム事業を拡大、帰国後にGlobal Health、ODA政府開発援助プロジェクトを統括し、2021年にNURAを立ち上げた。
高橋 正道(たかはし・まさみち)
富士フイルム ICT戦略部 イメージング・インフォマティクスラボ 統括マネージャー。1999年慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科修了後、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2005〜2007年MIT Sloan School of Management, Center for Collective Intelligence訪問研究員。2022年富士フイルムに移籍。ブロックチェーン技術の応用研究に従事。
大坪 隆信(おおつぼ・たかのぶ)
富士フイルム ICT戦略部 イメージング・インフォマティクスラボ 研究マネージャー。1999年早稲田大学大学院 理工学研究科修了後、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。医療機関における文書マネジメント(DACS: Document Archiving and Communication System)の研究、ビジネス開発に携わり、2024年富士フイルムに移籍。現在はNURAのデータ活用に向けたブロックチェーン技術の応用研究に従事。