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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

BIMデータを軸にした連携プラットフォームで守りと攻めのDXを推進

「Industrial Transformation Day 2024」より、大和ハウス工業 建設DX推進本部 次長の宮内 尊彰 氏

齋藤 公二
2024年5月20日

BIMデータ活用のためのツールやシステムを開発

 大和ハウスにおける建設DXは大きく3つのフェーズで実施されてきた。第1フェーズは2017年から現在までの「BIMをつくる、ためる」取り組みだ。第2フェーズはで現在力を入れている「BIMをつくるから連携へ」の取り組み、そしで第3フェーズが現在から未来に向けた「データ活用はバリューチェーンプラットフォームへ」の取り組みである。

 第1フェーズでは、CDEにあらゆるデータを蓄積し活用する。「既に設計ではBIM移行率100%を達成した。CDEには企画設計件数で年間4000件、実施設計件数で900件を蓄積している」と宮内氏は説明する。ツールとしてはBIMソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)や建設文書管理ソフトウェア「Docs」(同)、建設業界向けクラウド「Construction Cloud」(同)などを利用する。

 第2フェーズでは、部門ごとに蓄積したBIMデータを連携する。そのために、設計・施工の工程でBIMデータの受け渡しが可能かどうかを担当者が確認できるように「連携メニュー」という仕組みを、建設・製造業向けITベンダーの応用技術と協力して開発した。独自のBIMコマンドツールとして「鉄骨梁貫通チェックツール」や「騒音計算伝搬予測ツール」なども開発した。

 メーカー横断の建材カタログ「建材データベース」や、メーカー間の比較が可能な建材の選定・管理サービス「Trussシステム」を開発した(図3)。いずれも建材管理クラウドを提供するグループ会社のトラスとで取り組んだ。

図3:TrussシステムにおけるBIM連携。BIMデータをさまざまな部門で活用する

 Trussシステムでは、建材情報を紐付けたBIMデータをXR(eXtended Reality:拡張現実)技術を使って視覚化する。その効果を宮内氏は、「設計レビューやフィードバックによって、理解度の向上やコラボレーションの強化、問題の早期発見につながっている」と話す。

 ほかにも、初期の見積もり時にコストを算出する「超概算システム」や、初期提案時に3次元の仮想空間であるメタバース内で住宅を事前確認する「XRレビューシステム」も開発した。いずれも「グループ共通に利用する業界を超えたプラットフォームになっている」(宮内氏)という。

 BIMデータの連携は、守りと攻めの観点で見ると、社内業務の効率化や生産性向上など守りの要素が強い。それが「取り組みを進めるなかでデータが構造化され、攻めのDXにつながる土台になる」と宮内氏は指摘する。

 例えば、構造部門が作成したBIMデータを工場の製造部門に連携すれば、構造BIMデータに対し、製造部門が専用CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアを使って構造BIMにはない情報を付加して利用できる。こうした連携が構造部材だけでなく、外壁の下地材などの二次部材にも広がっていく」(宮内氏)

BIM連携のためのプラットフォームで共創を実現へ

 ただ第2フェーズまでも平坦な道のりではなかった。宮内氏は、その過程をこう説明する。

 「当初、工場担当者からは『今のやり方を変えたくない』『人が作ったデータだと頭に入らない』『BIMがなくても全然困らない』といった声が多かった。それが、約2年の取り組みの中で、『慣れたらBIMデータのほうがいい』『ピース数、重量、溶接長がすぐ出るため工程計画が早くできる』『早期に図面を提出でき原寸検査に早めに着手できる』など共通の思いに変化した」

 現在は第3フェーズのバリューチェーンプラットフォームの実現に向かっている。「従来つながらなかった企業間・業務プロセス間や、現場で発生する膨大なデータを統合データ基盤でつなぎ、変化に柔軟に対応できるようにする。データを中心に構造化情報を蓄積し、購買や調達でも活用するなどサプライチェーンを超えたプラットフォームを実現する」(宮内氏)のが目標だ。

 同プラットフォームの構築により、「攻めのDXの取り組みが加速しつつある」と宮内氏は話す。例えば、購買システムとの連携では、顧客は多くの建材から比較検討でき、メーカーやサプライヤーは商品提供のチャンスが増える。また顧客は、流行部材や品質の高い建材を選択でき、メーカーは建材のニーズや傾向を把握できる。建材流通の可視化により、高品質な建材の選択や予約生産、発注の早期把握も可能になる」。

 宮内氏は、「市場の状況に応じた数量での生産や、EC(電子商取引)サイトを使った価格の透明性確保やコスト削減など、建設業における新しいビジネスモデルの創出につながる可能性もある」とし、プラットフォーム上での共創の重要性を訴えた。