• Column
  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

BIMデータを軸にした連携プラットフォームで守りと攻めのDXを推進

「Industrial Transformation Day 2024」より、大和ハウス工業 建設DX推進本部 次長の宮内 尊彰 氏

齋藤 公二
2024年5月20日

建設業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みにおいて、BIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)データの利用が活発化している。大和ハウス工業 建設DX推進部 次長の宮内 尊彰 氏が、「Industrial Transformation Day 2024(主催:DIGITAL X、2024年3月14日~15日)」に登壇し、同社が構築しているBIMデータ活用のプラットフォームと、その狙いについて解説した。

 「今のままでは建設業は立ち行かなくなるという危機感がある。顧客に愛され、魅力ある建設業を築くためにはDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が欠かせない」−−。大和ハウス工業 建設DX推進部 次長の宮内 尊彰 氏は、同社のDXについて、こう話す(写真1)。

写真1:大和ハウス工業 建設DX推進部 次長の宮内 尊彰 氏

BIMを中心としたデジタル戦略「メビウスループ構想」を打ち出す

 大和ハウス工業は1955年、「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」という創業者精神のもと設立された。パイプハウスから工業化住宅、商業施設、物流施設など「社会変化を捉えた商品/サービス」(宮内氏)を生み出し成長を続けてきた。「DXにおいても、創業者精神を基本理念に『人・街・暮らしの価値共創グループ』としてハウスメーカーの枠を超えた未来を切り拓くことを目指している」と宮内氏は説明する。

 同社がBIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)に取り組み始めたのは2017年のこと。BIM推進室を設け「“圧倒的なBIMのトップランナー”を合言葉に、日本初のBIMによる建築確認申請、構造計算適合性判定を取得した」(宮内氏)。2019年には、施工のデジタル化を推進する「デジタルコンストラクションプロジェクト(デジコンPJ)」を開始し、BIMを中心としたデジタル戦略「メビウスループ構想」を打ち出している(図1)。

図1:大和ハウス工業のデジタル戦略である「メビウスループ構想」の概念

 推進部隊の人数も、2017年当初の5人が2020年には約100人にまで増え、建設デジタル推進部に改組した。宮内氏は「BIM100%を目指した取り組みのなかで、BIMは3D(3次元)モデル作成だけでなく、デジタル化推進の一部になった」と振り返る。

 その後、情報統合基盤となる「CDE(Common Data Environment:共通データ環境)」を整備。2022年には200人を超える組織になり、現在の建設DX推進部へと発展した。「DXの実現に向け、設計BIM、施工のデジタル化に加え、『デジタル大和ハウス』の実現に向けたデジタル戦略へ舵を切り、世界を代表するBIM企業を目標に強い信念を持って取り組んでいる」と宮内氏は力を込める。

守りのDXと攻めのDXをプラットフォームでつなぐ

 大和ハウスがDXに取り組む背景には、建設業が抱える課題がある。2024年4月から時間外労働上限規制が適用されたほか、2025年までには建設技能労働者人口が約130万人不足すると予想されている。災害や異常気象の増加・大型化を受け、応急仮設住宅の早期提供が求められるケースも増えている。

 その解消に向け大和ハウスは、第7次中期経営計画において、3つの経営方針と8つの重点テーマを掲げた。DXは重点テーマの1つで、デジタル戦略の柱の1つがBIMの活用であり、もう1つがBIM以外のデータを活用するデジコンPJである。

 BIMの活用では、設計時に作成するBIMを施工や製造、維持管理の建設プロセスにも利用する。そのために「データベースに格納し、共通データ環境として誰もが活用できるようにした」(宮内氏)

 BIM以外のデータ活用では、予測型の遠隔管理や建物の自動設計、現場でのITを活用した施工の効率化などに取り組む。「それぞれの取り組みを次世代のBIMにナレッジとして付与し、デジタル戦略のループを回していく」(宮内氏)という。

 大和ハウスは建設DXを「建設技術とデジタル技術のかけ算」だと定義する。「良い設計により良品な建物を建て、効率良く安全に設計・施工するといった建設技術の要素と、デジタル情報の蓄積と活用、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の導入といったデジタル技術の要素を多対多で掛け合わせたビジネスモデル変革を目指す」(宮内氏)という意味だ。

 ただ「DXには、業務効率を中心とした“守りのDX”と、利益向上に寄与する“攻めのDX”がある。そこでは、両者の中間に位置し、BIMを機軸にした建設データ活用のためのバリューチェーンプラットフォームの構築が重要になる」と宮内氏は指摘する(図2)。

図2:守りのDXと攻めのDXを「バリューチェーンプラットフォーム」でつなぎ、経営効率を高める

 バリューチェーンプラットフォームは、「資産配分の最適化、コスト競争力の強化、安定共有体制の構築、ガバナンスの強化などにより経営効率を高めるための基盤」(宮内氏)に位置づけている。