- Column
- 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より
サプライチェーンや気候変動の課題には現場の知見を活かし全社で取り組む
「Industrial Transformation Day 2024」より、米Slalom日本法人 Manufacturing Practice Leadの石川 啓 氏
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世界の製造業は、サービス化や顧客体験の価値向上、サプライチェーンの混乱や気候変動といった課題に直面している。デジタルを駆使したビジネス変革を支援する米Slalomの日本法人でManufacturing Practice Leadを務める石川 啓氏が、「Industrial Transformation Day 2024(主催:DIGITAL X、2024年3月14日〜15日)」に登壇し、製造業のトレンドの1つであるグローバルサプライチェーンの課題と、その対処法を解説した。
「グローバルサプライチェーン領域では今、レジリエントサプライチェーンとネットゼロが注目を集めている。前者は、パンデミックや半導体供給不足など予期せぬ課題への対処であり、後者は温室効果ガスの正味排出量をゼロにする取り組みだ」――。米Slalomの日本法人のManufacturing Practice Leadである石川 啓氏は、こう話す(写真1)。いずれも「欧米では大きな動きが起こっており、日本でも対応が求められている」(同)とする。
サプライチェーンを可視化するコントロールタワーが必要
まずレジリエントサプライチェーンの実現においては、「問題が生じた際の可視化が難しい」と石川氏は指摘する。例えば、半導体などの部品が供給停止になり全体に影響を及ぼしてしまうのは、「特定の半導体が、ある1社からしか入手できないリスクが明確に見えなかったために生じた問題」(同)だ。最適化に向けても、「局所的な最適化に留まり、全体最適化が図れず、結果として部品不足や生産活動の停止が発生した事例もある」(同)という。
サプライチェーンの全体像が見えにくい課題の対策として注目されるのが「サプライチェーンコントロールタワー」である。「サプライチェーンのあらゆる情報を一箇所に集約し、予測・評価し、迅速な意思決定と実行につなげる取り組み」(石川氏)だ。
ただ、コントロールタワーの運用に当たっては、「企業や市場の特性に応じた指標やデータを確実に取り込めるかどうかが課題になっている」と石川氏は言う。例えば、現場のベテランが見ている数値に必要な指標やデータのヒントが隠れていても、「それをどう掘り起こし共有していくかには、これといった定石がなく、個別に手立てを検討する必要がある」(同)のが実状である。
加えて、一箇所に集約した情報を分析・活用するには、「適切なスキルを持つデータサイエンティストなどの存在も不可欠になる。コントロールタワーの効果的な運用には、具備すべき能力が多岐にわたることへの注意が必要だ」と石川氏は強調する(図1)。
ネットゼロと経済効率を同時に追求する“攻め”の姿勢が重要
次にネットゼロへの実現に向けて欧米では、「さまざまな温暖化対策の規制が導入され、その対応策としても可視化が重要視されている」と石川氏は話す。達成状況を可視化するダッシュボードを導入し、再生可能エネルギーの利用率や水の再利用率といった目標を可視化・管理したり、企業全体の電力利用量の最適化やコスト削減の確認を進めたりだ。石川氏は、「先進企業はネットゼロと経済的な効率を同時に追求している」とする。
これに対し日本では、規制が進む中、どのような対策を取るべきかという議論が主流になっているという。石川氏は、「規制を遵守する“守りの姿勢”は重要だが、ネットゼロの達成とコスト最適化や効率向上を目指す“攻めの施策”も忘れてはならない」と強調する。
そのうえで、「ネットゼロは企業活動全体が対象になるだけに、世界中をつなげてデータを可視化する必要がある。そうした取り組みは、トップからすべての部門に至るまで、くまなく推進しなければ成果には、つながらない」(石川氏)ともする。
こうしたレジリエントサプライチェーンとネットゼロへ取り組む日本企業の例として石川氏は、ブラザー工業を挙げ、同社品質・製造センター製造企画部の西村 栄昭 氏を紹介した。