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  • 製造DXの“今とこれから” 「Industrial Transformation Day 2024」より

富士フイルム、X線用フィルム時代から続くメディカル事業をITとAI技術でコト化を図る

「Industrial Transformation Day 2024」より、富士フイルム メディカルシステム事業部兼ICT戦略部の越島 康介 氏

森 英信(アンジー)
2024年6月7日

コト化に向け独自の医療バリューチェーンを形成

 富士フイルムがITやAI技術の取り組み注力するのは、「モノ(医療機器)からモノ + コト(リカーリング)へと価値提供の転換を図っていく」(越島氏)ためである(図2)。そのために「独自の医療バリューチェーン形成に向けて活動していく」(同)という。

図2:富士フイルムがIT・AI技術の活用によって描く成長戦略

 具体策としては現在、(1)従来の延長線上にない製品の創出と(2)既存の医療機器をネットワークでつなぎAI技術を導入することの2つに取り組んでいる。

 従来の延長線上にない製品の創出例には、視鏡事業における内視鏡診断支援システム「CAD EYE」がある。独自のAIシステムを膨大な臨床データを深層学習して開発した。越島氏は、「自社開発したAIシステムを生かし、操作/手技、診断支援、レポートまでのワークフロー全体を支援する」と強調する。

 2020年には、下部消化管領域(大腸)の内視鏡診断の支援機器も発売。2022年には、内視鏡支援機能の対象領域を拡大し、上部の内視鏡診断を支援する医療機器として国内初の薬事承認を取得した。越島氏は、「上部のがんは、がん罹患数全体のトップ3に入る。上部内視鏡の検査件数は下部検査より多く、大腸がんに比べて5年生存率が低いだけに、医療の高度化に貢献できる」と話す。

 CTやMRI機器においてもITやAI技術との連携を強めている。「これまで時間が掛かっていたポジショニングや撮影計画の自動化により、放射線科のワークフローの効率化を図っている」と越島氏は、その成果を挙げる(図3)。放射線科医の不足や過重労働といった課題の解決につなげる。

図3:CT・MRIを用いる放射線外科医のワークフロー支援のイメージ

医療のためのAIの開発を支援する基盤も展開

 コト(リカーリング)化に向けては、(1)疾患別の新規事業創出と(2)パッケージサービスの2つを計画する。新規事業の創出に向けては、手術を支援するための術中ナビゲーションを術前シミュレーション技術を応用して開発した。

 医療現場では今、手術ロボットの採用が進んでいる。その活用では、正確な3D映像をリアルタイムに表示する技術が重要になる。越島氏は、「3D画像解析の知見を手術の安全と効率化に役立てる。手術ロボットを開発する企業と連携し、見えないモノを診るための外科総合サービスを確立したい」と意気込む。

 パッケージサービスでは、画像診断支援のためのAI開発を支援するシステム「SYNAPSE Creative Space」を開発した(図4)。国立がん研究センターと共同で開発したAI技術開発の研究基盤を用いている。2021年にベータ版の提供を始め、2024年度の正式リリースを予定する。

図4:「SYNAPSE Creative Space」のロードマップと目標

 Creative Spaceにおいては、(1)希少疾患などに関するAI技術の開発推進、(2)AI技術開発の民主化、(3)リカーリングビジネスモデルの確立の3つを目標にする。Creative Spaceをオープンプラットフォームに位置付け、「希少疾患に対して必要なAIを共創かつ、AIエンジニア任せでなく開発する」(越島氏)ためだ。Creative Spaceは、「教育機関のAI教育支援ツールや、内視鏡や病理画像など放射線画像以外への用途の拡大が考えられ、コト化につながる」(同)と期待する。

 パッケージサービスの先行事例として越島氏は、新興国で展開する検診センター「NURA(ニューラ)」を挙げる。「日本式の高品質な検診サービスを2万円というリーズナブルな価格で提供している。当社の医療機器やAI技術を活用し、すべての検査・説明が120分で完了する」(越島氏)のが特徴だ。

 NURAは、まずはインドで開設し、最近はモンゴルにも展開した。経済産業省のアジアDX促進事業、インド太平洋地域サプライチェーン強靱化事業にも採択されており、「2030年度に100拠点、グローバルでの売上高200億円を目指す」(越島氏)という。