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- CX(顧客体験)を高めるための生成AIの使い方
CXを高めるための生成AI/AI活用の可能性と課題【第2回】
生成AIとAI技術の“適材適所”での使い分けが重要に
CX向上に大きな期待が高まる生成AIですが、他のAI技術と連携することでその可能性がさらに広がります。生成AI、予測AI、会話型AIがデータを共有し、継続的に学習・進化することで、よりスマートで高度にパーソナライズされた顧客体験の実現が期待されています。
例えば、生成AIの課題の1つにハルシネーション(幻覚。誤った情報を生み出すこと)があります。AIシステムは、適切な知識とトレーニングを通じて精度を高め、ハルシネーションを減らす必要があります。
また、AIモデルのトレーニングにおいては、厳格な透明性と倫理を確保することが重要です。ステークホルダーは、アルゴリズムが自分たちのデータをどのように使用しているのかを正確に理解する必要があります。さらに、機密情報や知的財産を保護するために、プライバシー基準を最初の段階から組み込むことが求められます。
そこで注目されているのが「生成AIは主に社内プロセスの効率化に使い、フロントエンドには、あえて従来型のAIを使う」という運用方法です。つまり、生成AIを使って、顧客との会話を要約しレポートを自動で作成したり、会話内容を解析し対応の問題点を探ったりと、顧客対応後の処理を自動化しオペレーター業務の効率を高めるのです。(図2)
こうした利用方法は、EX(Employee Experience:従業員体験)の向上に特に貢献できると考えられます。EXが向上すれば、その結果としてCXの改善に結びつきます。つまり、生成AIとAIとを“適材適所”で使い分けていくことが重要になるのです。
データのサイロ化の解消には連携が容易なシステム環境が不可欠
コンタクトセンターにおける生成AI/AI技術の活用において重要になるのが、データの統合です。生成AI/AIの学習と活用には大量のデータが必要であり、企業活動のさまざまな側面をカバーしたデータでなければなりません。コンタクトセンター内のデータだけでなく、開発やサポート、営業、マーケティング、物流、代理店支援などの担当部門が持つデータも統合し、学習・処理した結果を各部門にフィードバックすることで生成AI/AIの精度は上がり、全社的な効率が高まり、最終的にCXの向上が可能になります。
ただ現状では、社内システムは互いに連携していないことが多く、データの統合に時間がかかったり、全く不可能だったりする場合があります。さまざまなシステムがデータを外部と共有できず囲い込んでいる状況が「データのサイロ化」です。そうならないためには、コンタクトセンターや顧客管理、営業管理など企業内のさまざまなシステムが、互いに連携できるようになっていなければなりません。
その際、コンタクトセンターのシステムそのものが、コール管理やルーティング、シフト管理など複数のシステムに分割していては、他システムとの統合のハードルは高くなります。今後、AIによるデータ活用を考慮すると、コンタクトセンターのシステムは、より統合されていった方が望ましいと言えます。
もう1つ、システムの連携では、オンプレミスよりもクラウドベースのシステム同士の方がスムーズなケースが多いというポイントがあります。オンプレミスに構築されてきたシステムは、外部との連携を考慮していない場合が多く、連携のために高額なカスタマイズ費用が発生することもあります。これに対し、クラウドベースのシステムは、外部との連携を想定している場合が多く、スムーズな連携が可能になります。
加えてクラウドベースのシステムは、新技術への対応も速いという特徴があります。1カ月の間に新機能が何度もリリースされることもあります。それを使用するために利用者側が作業する必要もありません。
次回は、自動対応における生成AI/AI技術の活用について考えてみます。
岡野 泰士(おかの・やすし)
ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部長。大学卒業後、IT会社のSEとして、地方銀行やメガバンク、証券業界向けのコンタクトセンター基盤やCRM導入プロジェクト、AWSやMicrosoft Dynamicsなどを活用したサービス構築に携わる。2014年インタラクティブ・インテリジェンスに入社し、PureConnectやPureCloudのセールスエンジニアとして活躍。ININの買収に伴い2017年ジェネシス入社。現在はソリューションコンサルティング部門の日本の責任者を務める。