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- CX(顧客体験)を高めるための生成AIの使い方
CXを高めるための生成AI/AI活用の可能性と課題【第2回】
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前回は『CX領域で生成AIを活用するための基礎知識【第1回】』として、生成AI(人工知能)技術の特徴や可能性、および問題点について、その概要を確認しました。今回はコンタクトセンターにおけるAI技術活用の機会について考えてみます
「コンタクトセンターはコストセンターではなく、収益を上げられるプロフィットセンターを目指すべきである」−−。こうした考え方は、特に目新しくはありません。これまでもパーソナライズされた顧客対応の強化、ボイスやチャットボットを活用した業務効率化、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)などとの連携による顧客理解の促進などにより、売り上げに貢献できるコンタクトセンターの構築が目指されてきました。
コロナ禍でコンタクトセンターの役割が、より重要に
そうした中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが起き、コンタクトセンターを取り巻く状況は一変しました。店舗やショールームでの顧客対応が一切できなくなり、電話あるいはオンラインだけが顧客接点になったためです。コンタクトセンターは一夜にして主要な顧客接点に変貌を遂げたのです。
コンタクトセンターの重要性が一気に高まったことで、予算やリソースも、これまでになく投下されるようになり、ほんの数年でコンタクトセンターと、それを支える情報システムやサービスなども進化しました。AI(人工知能)技術の実用化が進んだタイミングでもあり、AIベースのボットやオペレーターサポートの仕組みを導入した企業も多くありました。
コロナ禍が収束に向かおうとしていた2022年末、生成AI技術を使ったチャットサービス「ChatGPT」が公開され、世界中に熱狂的なブームが巻き起こりました。2023年は多くの生成AIが発表され、多くの企業がPoC(Proof of Concept:実証実験)に取り組みました。2024年は、そうしたPoCの成果が現場で活用され、コンタクトセンターでも本格的な活用が始まっています。
生成AIの登場以前から、AI技術は急速に進化し始めていました。例えば、AI技術による音声認識により、顧客とオペレーターの会話をテキストデータとして記録することが容易になりました。そのデータにWebサイトでの顧客の行動やチャットボットとの会話を組み合わせ、それらをAI技術で解析し、ボットの応対シナリオやFAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問と答)の改善に結びつけるといった活用も可能になりました。
そこに、自然言語への対応力を高めた生成AIが登場したのです。生成AIはデータから特徴を抽出したりコンテンツを要約したりすることに秀でています。CX(Customer Experience:顧客体験)や顧客の行動の解析精度を高められると期待されています。
生成AI/AIの活用でカスタマージャーニーが変わる
生成AIおよびAI技術を活用すればCXをどのように高められるのか。架空のストーリーを例に、カスタマージャーニー(顧客体験の推移)を追体験してみましょう。(図1)
<ストーリー>
Aさんの娘さんは海外留学のために空港にやってきました。ところが、空港到着後にスマートフォンが故障してしまいました。出国までに契約を見直し、代わりのスマホを用意しなければなりません。故障でスマホを使えない娘さんに代わり、見送りに来ていたAさんが新しいスマホを手配することになりました。
(1)AさんがWebサイトで解決策を検索
スマホの故障という事態に遭遇し、娘さんの出発まで時間のないAさんはまず、解決策をWebサイトで検索します。
(2)Webサイトのチャットボットが起動
WebサイトでのAさんの検索行動から、AIテクノロジーでサイト訪問の目的を察知し、チャットボットを起動させます。
(3)チャットボットが対応
チャットボットがAさんの質問に回答しますが、料金プラン変更の詳細に確認するために、Aさんは人間のオペレーターとの会話を希望しました。
(4)最適なオペレーターをアサイン
AI技術を備えるルーティングエンジンが、質問内容に最適なオペレーターをアサインします。
(5)オペレーターの対応を生成AI/AIが支援
オペレーターがAさんに対応している間に、生成AI/AIが過去のナレッジから関連情報を見つけ出し、オペレーターの画面上に表示し、契約の見直しをスムーズに進めます。
(6)携帯ショップへの指示
契約の見直しが済むと、システムが最寄りのショップへ新しいスマホの手配を指示します。スマホの準備状況はシステムから逐次、Aさんに連絡されます。
こうしてAさんの娘さんは、空港のショップで無事、新しいスマホを受け取れました。しかし、生成AI/AIの利用は、ここで終りではありません。カスタマージャーニーを解析し、必要なナレッジの整備と対応フローを最適化することで、短時間の機種変更に対応していたのです。
(7)カスタマージャーニーの解析
今回の機種変更案件におけるカスタマージャーニーを生成AI/AI技術で解析し、問題点を可視化します。
(8)音声解析による内容の把握とトレンドの分析
発見された問題点について、生成AIでテキスト化した音声データの要約からトレンドを分析します。今回は、機種変更のための契約内容変更時の対応品質が下がっていることが分かりました。
(9)Webサイトの改善およびナレッジのアップデート、オペレーターのシフト管理
明らかになった問題点について、生成AI/AI技術による提案をベースに対応策を検討します。具体的には、Webサイトのレイアウトや動線の改善、オペレーター支援のためのナレッジの強化や更新などです。特定の問い合わせが集中しそうな時間帯においてはオペレーターのシフト調整なども実施します。
このように、CXを高めるためのAIには、さまざまなものがあります。Web上の動線分析や、チャットボット、AIルーティング、エージェントアシスト、ジャーニー分析などに生成AIが加わることで、顧客対応の自動化とハイタッチ化が図れます。同時に、顧客対応の分析や問題点や改善プランの抽出、オペレーター支援によって負荷を軽減し効率を高め、全体的なCXを高められるのです。