- Column
- CX(顧客体験)を高めるための生成AIの使い方
CX領域で生成AIを活用するための基礎知識【第1回】
生成AI(人工知能)を使ったチャットサービス「ChatGPT」の登場により、世界中で生成AIへの注目が集まりました。現在は、現場での活用が始まり、本格的な普及期を迎えようとしています。生成AIは、コンタクトセンターにおけるCX(Customer Experience:顧客体験)と、そこで働くオペレーターのEX(Employee Experience:従業員体験)の向上に大きな影響を及ぼします。今回は、生成AIの特徴と、その可能性と限界について説明します。
2023年は、まさに「生成AI(人工知能)元年」と言える年でした。国内外で多数のPoC(Proof of Concept:実証実験)が実施されました。そして2024年になり、現場での実活用が始まり、本格的な普及期を迎えようとしています。
生成AIには、テキスト生成や画像生成、動画生成など、さまざまなジャンルがあります。本連載では、ビジネスへの影響が最も大きく、コンタクトセンターにおけるCX Customer Experience:顧客体験)とも関わりが深いテキスト系の生成AIを取り上げます。
ChatGPTの登場が生成AIへの注目を一気に高めた
生成AIは「第4世代のAI」と言われています。第3世代までのAIは、大量のデータを学習することで画像認識や分類といった知的作業を実行できました。生成AIは、さらに高精度・高性能になり、従来は「人間にしかできない」と考えられていた「コンテンツの生成」ができるようになりました。
それを支えているのが、これまでとは桁違いの大量データを高速に学習できる新しいアーキテクチャーと、それを可能にするハードウェアの高速化です。膨大なデータと演算パワーにより、生成AIの能力が高まった結果、テキスト生成においては人間から見ても違和感のないレベルの文章を生成可能になりました。
それを具現化したのが、米OpenAIが開発するチャットサービス「ChatGPT」です。OpenAIが最初サービス「GPT1」を発表したのは2018年のこと。当時から言語生成能力の高さは注目されていました。翌2029年に学習データを増やした「GPT2」が発表されました。このときには「悪用されると危険」との判断からリリースを遅らせたという逸話があります。
そして「GPT3.5」をベースに「人間との自然な対話」に特化したチューニングによって、人間との“チャット(対話)”を違和感なく実行できる形で2022年末に発表されたのがChatGPTです。
GPT3.5は元々高い能力を持っていますが、それをベースに人間との自然な“対話”を実現したことで、一般人も気軽に使えるようになりました。それまでのAIのイメージを覆すことに成功した結果、大ブームを巻き起こしたのです。高い言語能力により、コンテンツの生成だけでなく、文書の要約や予測なども可能になりました。
2024年5月に公開された「GPT-4o(フォーオムニ)」は、テキストだけでなく、音声や画像を組み合わせた入力を受け入れ、それらを組み合わせた出力を生成できるようになりました。人間とコンピューターの、より自然な対話に、また一歩近づいたことになります。
ただ、ここで大事なのは、従来型のAI技術が使えなくなったわけではないということです。詳細は後述しますが、第3世代のAIのほうが向いている分野もあります。要は使い分けが大事ということでしょう。
生成AIはコンタクトセンターにおけるCXとEXを高める
AI技術の活用分野は、大きく4つに分けられます。(1)識別系AI:画像認識や文字認識、(2)予測系AI:需要予測や異常検知、(3)会話系AI:翻訳や音声認識、(4)実行系AI:自動運転やロボット制御です。これらを組み合わせることでCXの向上が図れます。
コンタクトセンターではこれらのAI技術を活用し、顧客との会話を音声認識でテキスト化したり、問い合わせが増える時期を予測してシフトを組んだり、会話内容に応じて最適な回答をオペレーターに提示したりすることで、大きな成果を上げてきました。生成AIは、会話系の能力を大幅に強化することになります(図1)。加えて、予測系や実行系にも大きな影響を与えます。オペレーターを対象にしたEX(Employee Experience:従業員体験)の向上にも有用だと期待されています。