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  • CX(顧客体験)を高めるための生成AIの使い方

顧客接点におけるAI/生成AI技術の活用方法【第3回】

岡野 泰士(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部長)
2025年3月3日

ボットやFAQの開発・改善の自動化が可能に

 AI/生成AIが活用できるのは既存ボットの改良だけではありません。ボットの開発そのものの自動化も進んできています(生成AI技術を使ったバーチャルエージェントの開発例)。

 例えば、住所の変更手順を説明するボットの開発では一般に、ヘルプ情報を頼りにシナリオを考え、変更手順や画面を考えなければなりません。それが、AI/生成AIを使った開発では、「何をしたいのか」というボットの開発目的を入力すれば、変更すべきパラメーターの選定から、過去の事例を参考にした案内手順の作成、画面設計、適切なひな形までが作成されます。

 ひな形を利用し、運用上、名前より先に顧客番号を聞きたいといった個別要件があれば、その部分を修正すればボットの運用を始められ、開発・改良を外注するためのコストを節約できます。特定の業界でよく使われるシナリオをベストプラクティスとして使えば最初から品質の高いボットを開発できます。

 ボットの導入を検討しているのに躊躇(ちゅうちょ)している企業や、導入はしたけれど期待した効果を得られていない企業が感じている課題は、ボットの開発や改良に専門知識やプログラミング技術が必要な点です。開発・改良を外注すればコスト的な問題も無視できません。そのハードルをAI/生成AIが引き下げることができれば、企業におけるボットの導入・活用が進み、社会全体でのCXの底上げが期待できます。

 さらにボットは、作成すれば終わりというわけにはいきません。実運用を通して、顧客の反応が良くなかったり途中離脱が多かったりすれば、顧客行動を分析しシナリオを改善していく必要があります。

 そのための分析にもAI/生成AIを利用できますし、シナリオの自動修正も可能になります。外部に委託するコストも時間もかからなければ、自社でシナリオを修正する場合でも、作業効率を大幅に高められます。ボットを適宜改善すればサポート品質は確実に高まります。

FAQの作成と改善

 生成AIは自然言語処理に優れ、過去のデータを分析/要約して新しいコンテンツを生み出せます。顧客とボットやオペレーターとの膨大なやり取りをデータとして活用できれば、その分析から、「顧客が何を求め、何に困っているか」、それに対して「現在のWebサイトやFAQ、オペレーターの対応はきちんと応えられているのか」といったことが明らかになります。

 さらに、きちんと対応するためには、「どう答えれば良いか」の応対例やFAQのコンテンツの作成も、生成AIが得意とするところです。新しいコンテンツを受けて、FAQの既存タイトルや既存コンテンツを改善したり、不足項目を追加したりすることでFAQを最適に維持できます。結果、顧客の質問傾向や内容の品質が高まるといった大きな効果が期待できます。

 加えて最近注目されているのが、FAQのコンテンツをWeb用や、ボット用、オペレーター用のそれぞれに最適な内容・長さへの調整です。顧客がアクセスしてくるチャネルの特性に応じて、タイトルや内容、分量を調整することで、よりきめ細かな顧客対応が可能になります。

行動分析によるWebの動線やカスタマージャーニーの改善・最適化

 ECサイトやWebで情報を発信している企業にとってカスタマージャーニーの追跡は非常に重要です。顧客がどこから流入し、商品ページのどこをチェックし、どのFAQを見て、最終的に購買に至ったり目的を達成したりしているかという顧客動線を可視化するツールも多数存在します。

 そこにAI/生成AIを組み合わせれば、顧客の行動データから、Web動線のどこで迷っているか、どこが離脱ポイントかなどが分析でき、それらを改善することで、より良いCXを提供できるようになります。

オムニチャネル対応

 多くの企業が取り組んでいるオムニチャネルの統合運用も、AI/生成AIのサポート対象です。顧客が複数のチャネルを切り替えてもコンテキスト(文脈)を失わずにカスタマージャーニーを追跡し、それを適格に要約することでオペレーターの対応を最適化し、総合的なCXの向上に役立てられます。

 複数のチャネル間でデータを同期を取れば、ルーティング後のオペレーターに適切な指示を与えられます。AIとエクスペリエンス・オーケストレーションの機能を使い、顧客の意図や感情を捉え、対応を最適化し、Web上の動線の改善などにつなげます。全ての接点ややり取りの連携が図れれば、顧客、従業員、そして企業に対しても新たな価値を創出できるのです。

コンタクトセンターとAIが共にクラウドベースなら統合は容易

 AI技術の進化のスピードは想像以上です。テック企業ではない一般企業が技術の進化に追従していくことは至難の業であり、現実的ではありません。バージョンアップも頻繁に行われるだけに、その度にシステムを統合し直すことはコスト的にも負担が大きくなります。

 つまり、コンタクトセンターシステムとAI/生成AI技術は統合されていることが理想的だということになります。システム統合の負担がなくなり、システムインテグレーターも一定の基準に沿ってAIサービスやAI基盤を選択するはずなので安心感は高まります。

 主要なAIサービス/基盤のほぼ全てがクラウドベースで提供されており、それをAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)経由で利用する形が一般的です。最新技術を迅速に利用企業に届けられるからです。そうした外部サービスを使う際は、コンタクトセンターシステムもクラウドベースであれば、統合や管理が容易になります。

岡野 泰士(おかの・やすし)

ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部長。大学卒業後、IT会社のSEとして、地方銀行やメガバンク、証券業界向けのコンタクトセンター基盤やCRM導入プロジェクト、AWSやMicrosoft Dynamicsなどを活用したサービス構築に携わる。2014年インタラクティブ・インテリジェンスに入社し、PureConnectやPureCloudのセールスエンジニアとして活躍。ININの買収に伴い2017年ジェネシス入社。現在はソリューションコンサルティング部門の日本の責任者を務める。