- Column
- 人とAIの協働が導く製造DXの勝ち筋 「Industrial Transformation Day 2025」より
製造業の付加価値を高めるには人と生成AIとの融合が鍵を握る
「Industrial Transformation Day 2025」より、デロイト トーマツ コンサルティングの芳賀 圭吾 氏
人知とAIを融合しイノベーションの創出サイクルを生み出す
実は、「同様のアプローチは、生産性向上のための科学的アプローチにインダストリアルエンジニアリング(IE:Industrial Engineering)においては珍しくなかった」(芳賀氏)という。それが「IoTの普及に伴い分析目的の設定を後回しにするケースが増えてきた。データを活用した課題解決の意識が低下し、IEに悪影響をもたらしている」(同)とする。
そこでデロイトは、IEと生成AIを組み合わせ組織のデジタル化を進めるアプローチ「FOA(Flow Oriented Approach)」を推奨している(図3)。「組織内の出来事やプロセスを現場の言葉で切り出し、現場の構造化/非構造化データを組み合わせることで有益なデータセットを構築し、データの組織内共有を容易にし、生成AIによる活用を促進する」(芳賀氏)考え方だ。
FOAが目指すは「人知とAIの融合」だ。芳賀氏は「現時点の生成AIは、新たな知見を生み出す能力には限りがある。だが現場の事実を情報化し処理することで、生成AIは人が気づいていない仮説を提唱できる。そこから人が新たな気づきを得られれば、その仮説を検証して新たな知見を生みだせる」と説明する。このサイクルを回すことで「生成AIの賢さを高めつつ、その力を借りた共創のプロセスが進められる」(同)という。
データ管理にフォーカスし付加価値創出力や組織のデジタル化能力を高めよ
そのうえで芳賀氏は「製造業におけるDXは、導入段階を経て、成果創出と業務変革の段階に入りつつある」とみる。この段階にあっては「(1)データマネジメントへのフォーカス、(2)付加価値の創出力、(3)デジタル化能力の3つの能力が必要になる」(同)とする。
能力1:データマネジメントへのフォーカス
データに対しては現状、見せ方や分析手法の取り組みが進む一方で、どのようなデータを、どう整理・管理するかの議論は十分とは言い難い。今後は、より高度なデータ活用を視野にデータの用途や、解釈の方法、データの背景といった要件の見極めを進めるべきである
能力2:付加価値の創出力
組織にとっての付加価値はこれまで、事前に決まった条件や仕様の下で効率化することと捉えられてきた。しかし経営環境の不確定性が増すことで、事前に要件を固定するだけでは付加価値創出が困難になっている。そのため、自らが立案した仮説から、どのような付加価値が生まれるかを考え、検証を繰り返し、新たに生み出したノウハウを、ものづくりの要件に落とし込む能力を養うべきである
能力3:デジタル化能力
デジタルの仕組みは一般に、事業部門とIT部門による分業体制で整備されてきた。ただ最近は、デジタル化の能力はデータ活用の仕組みを短期間に整備できるほど高まっており、現場主導でシステムを短期開発する市民開発などの新たな開発手法が広がっている。新たな知見の創出に向けては、データや新技術の理解に加え、個々の社員が自己完結でデジタルの仕組みを整備できるよう、人材教育も含めた組織体制の整備に注力すべきである
芳賀氏は「DXの推進に向けては、組織の全員が自らデジタルの仕組みを整備できるほうが望ましい」としたうえで、今回紹介した考え方やアプローチにより「日本の製造業の復活に向けた取り組みを支援したい」と力を込める。