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  • 人とAIの協働が導く製造DXの勝ち筋 「Industrial Transformation Day 2025」より

世界3位の農機メーカー米AGCO、サービス事業拡大に向け製品データを一元管理

「Industrial Transformation Day 2025」より、AGCO グローバルPLM - アフターセールスパーツ担当マネジャー ティム・マルソ(Tim Mulso)氏

森 英信(アンジー)
2025年5月12日

農業機械メーカーの米AGCO(アグコ)は、M&A(企業の統合と買収)により多くのブランドを抱え世界3位のビジネスを生み出している。一方でデータモデルも複雑化したことから、製品データをグローバルで一貫性をもって管理できる仕組みの構築を急いでいる。同社のグローバルPLM - アフターセールスパーツ担当マネジャーのティム・マルソ(Tim Mulso)氏が弊誌主催の「Industrial Transformation Day 2025(2025年3月11日〜12日)」に登壇し、サービス部門が実現・活用するEPLM(Enterprise PLM:Product Lifecycle Management)について解説した。

 「企業の買収は、単にブランド資産や知的財産、製造・倉庫スペースを取得することにとどまらない。各社が持つデータやデータモデル、業務システム、ビジネスプロセスも引き継ぐことになる」−−。世界3位の農機メーカー米AGCO(アグコ)でグローバルPLM - アフターセールスパーツ担当マネジャーを務めるティム・マルソ(Tim Mulso)氏は、こう指摘する(写真1)。

写真1:グローバルPLM - アフターセールスパーツ担当マネジャーのティム・マルソ(Tim Mulso)氏

M&Aの裏側で起こった製品データの複雑化をデジタルスレッドで解消

 1990年設立のAGCOは、2023年時の年間売上高が144億ドル、従業員数は約2万8000人という世界第3位の農業機械メーカーである。設立初期の15年間に40社以上の企業を買収し、「Fendt(フェント)」「MASSEY FERGUSON(マッセイファーガソン)」「Valtra(ヴァルトラ)」「Precision Planting(プレシジョンプランティング)」など複数ブランドを展開する。2024年には「Trimble(トリンブル)」の株式85%を取得し、農業資産と技術ポートフォリオを取り込んだ。

 2021年には「ファーマーファースト(農家ありき)」戦略を打ち出した。「世界を持続可能性をもって養うための農家中心のソリューションの提供」を目的に「業界をリードするスマート農業ソリューションの最も信頼されるパートナーになる」というビジョンを追求している。

 AGCOのM&A(企業の統合と買収)の歴史は、AGCOに複雑な製品データ環境を生んでいる。マルソ氏は「製品データを関係部署間で共有しようとすれば、その移動過程で多くの手作業が発生している。部署間にある“フェンス越し”のプロセスは非効率なだけでなく、データの品質と正確性にもリスクをもたらしている」と話す。

 そうした課題を解決しファーマーファースト戦略を実現するためにAGCOは「製品データを一元管理する『EPLM(Enterprise Product Lifecycle Management)』を実現し変革を進めることを決定した」(マルソ氏)。製品データは現在、ビジネスのあらゆる側面に関係している。「設計から製造、アフターサービスまでの製品のライフサイクル全体で活用され、関連部門や顧客が何らかの形で関わっているだけに、製品データの分断は避けたい」(同)ためである。

 AGCOのEPLMのビジョンは「製品のライフサイクル全体を通じてバリューチェーン全体に一貫性のある正確な製品データのデジタルスレッドを確立すること」(マルソ氏)にある。そのために「市販のアプリケーションソフトウェアと共通データモデルを活用し、設計、製造、サービスを通じて製品データの作成・管理・実行・配信を標準化し、デジタルスレッドの基盤を構築する」(同)

 EPLMには「デジタルスレッド、デジタルツイン、デジタルファクトリー、デジタルデリバリーの4要素が含まれる」とマルソ氏は説明する(図1)。デジタルスレッドは製品ライフサイクル全体にわたる関連データの相互接続されたフローを指し、デジタルツインは実世界の製品を仮想的に再現する。

図1:米AGCOが構築する「EPLM」を構成する4要素

 デジタルファクトリーはデジタル技術を活用して効率性と生産性を向上させる製造施設の仮想モデルを意味し、デジタルデリバリーは優れた顧客体験のために部品や技術サービス情報をデジタルで提供することである。