- Column
- 人とAIの協働が導く製造DXの勝ち筋 「Industrial Transformation Day 2025」より
スウェーデンのボルボ・カーズ、SDV時代の競争力強化に向け3D CAD環境を刷新
「Industrial Transformation Day 2025 オンデマンド」より、PLMデジタル戦略責任者のダニエル・ラポ氏
ユーザー中心の評価アプローチが最大の成功要因に
評価プロジェクトが成功した大きな要因としてラポ氏は「自動車業界を取り巻く環境の変化を的確に把握したこと」を挙げる。加えて「経営層からの強力な支援があったことも追い風になった」(同)とし、次のような具体例を話す。
「上層部である役員やマネジャーの後押しと導きにより、さまざまな懸念に対応し、プロジェクトの戦略的な整合性を確保できた。特にエンジニアリング部門のCTO(最高情報責任者)とデジタル部門のCOO(最高執行責任者)がプロジェクトの初期段階から関与し、定期的な報告会で進捗をしっかりと共有することで、組織内での意思決定を根付かせることができた」
そのうえで最も大きな成功要因は「ユーザー中心の評価アプローチを採用したことにある」とラポ氏は強調する。「ユーザーニーズや困りごとに焦点を合わせたことで、持続可能で価値ある変革が可能になった」(同)と分析する。
評価プロセスには「約140人の専門家が関与し、性能や仕様をテスト・検証するとともに、具体的なユースケースを想定したドキュメントを整備した。ベンダーごとに180項目の機能と、潜在的な課題を網羅的にチェックしたほか、ベンダー自身による70のデモも実施し、実践的な視点からツールの適合性を理解しようと努めた」(ラポ氏)という。
15カ月の間の検証についてラポ氏は「参加者のスケジュール調整や会議室の予約、必要な機材の手配やベンダーとの調整、テストケースの進捗管理や報告書作成、各種調査など非常に多くの作業に取り組んだ。その積み重ねこそが評価プロジェクトの成功につながった」と総括する。
設計情報はシンプルな構造で管理する
CATIA V6の選定を終えた今は、その実行環境である製造業向けクラウド「3DEXPERIENCE」(仏ダッソー・システムズ製)上でデータモデルの実装を進めている。ラポ氏は「初期段階のため変更する可能性がある」としたうえで「現時点で考えるベストな方法はUPS(Universal Product Structure:統合された製品構造)モデルとブックマーク機能の2つの採用だ」とアイデアを示す。
UPSモデルでは、製品の設計情報を「あえてフラットでシンプルな構造で管理する」とラポ氏はいう。その構造の中から目的のデータを探し出すための目印としてブックマーク機能を使い「作業効率を高めたい」(同)考えだ。
設計情報は、製品全体のマスターデータとなる共通部品情報「GSD(Global Solution Delivery)」と、製品の特定の部分に使われる部品情報「LSD(Local Solution Delivery)」に分ける(図2)。個々の設計情報には、仕様のバリエーションや部品のバージョンといった情報も紐付ける。
そのうえで利用目的に合わせて必要な情報を公開する。そこではエンジニア向けの「Module(モジュール)」や顧客向けの「Consumer(消費者)」といったビューを用意する。これにより「設計部門だけでなく、生産準備や製造、購買といった後工程の全ての関係者が設計データを利用できる」(ラポ氏)とする。
なお今後、ボルボが取り組むトピックとしてラポ氏は次の8つを挙げる。(1)ハイパーパーソナライズされたユーザー中心のコンテキスト、(2)サイバーセキュリティへの準拠、(3)AI駆動による自動化、(4)AI技術によるバーチャルテスト、(5)SDV対応、(6)ディープラーニングと機械学習、(7)マルチシステム環境での運用、(8)システム思考とサービス指向アーキテクチャー(SOA:Service Oriented Architecture)である。
| 企業/組織名 | スウェーデンのボルボ・カーズ |
| 業種 | 製造 |
| 地域 | スウェーデン・イエーテボリ(本社) |
| 課題 | EV(電気自動車)をはじめとした次世代車両の潮流に対し、開発スピードと市場対応力を強化したい |
| 解決の仕組み | 3D CADソフトウェアを刷新しグローバルチームが3Dデータを共有できるようにする。その選定においては、機能、コスト、将来性など9つの評価基準を設け徹底した評価・検証を実施する |
| 推進母体/体制 | ボルボ・カーズ、仏ダッソー・システムズ |
| 活用しているデータ | 3D CADデータ、製品設計情報、ユースケース別の評価記録 |
| 採用している製品/サービス/技術 | 3D CADソフトウェア「CATIA V6」(仏ダッソー・システムズ製)、製造業向けクラウド「3DEXPERIENCEプラットフォーム」(同) |
| 稼働時期 | 2021年(CAD刷新プロジェクトの開始時期) |
