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- 人とAIの協働が導く製造DXの勝ち筋 「Industrial Transformation Day 2025」より
スウェーデンのボルボ・カーズ、SDV時代の競争力強化に向け3D CAD環境を刷新
「Industrial Transformation Day 2025 オンデマンド」より、PLMデジタル戦略責任者のダニエル・ラポ氏
EV(電気自動車)化や自動運転化の潮流を背景に、スウェーデンのボルボ・カーズ(Volvo Cars)は、設計基盤である3D CAD(3次元でのコンピューターによる設計)ソフトウェアを刷新した。同社 機械エンジニアリングソリューション エンジニアリングマネージャー 兼 PLMデジタル戦略責任者のダニエル・ラポ(Daniel Rapo)氏が「Industrial Transformation Day 2025 オンデマンド」(主催:DIGITAL X、2025年6〜7月)に登壇し、刷新プロジェクトについて説明した。
「EV(Electric Vehicle:電気自動車)の設計・開発工程にかかる時間やコストを削減し、製品の市場対応力を強化するために、設計・開発に携わるグローバルチームが3D(3次元)データを共有できるようにした」--。スウェーデンのボルボ・カーズ(Volvo Cars)の機械エンジニアリングソリューション エンジニアリングマネージャー 兼 PLMデジタル戦略責任者のダニエル・ラポ(Daniel Rapo)氏は、同社における3D CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアの刷新プロジェクトの狙いを、こう話す(写真1)。
自動車業界では、電動化やコネクテッド化、自動運転などSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義自動車)に向けた取り組みが並走し、先進的な製品を素早く市場に供給できる体制の整備が求められている。この市場環境に対応できる設計環境を作るためにボルボが選択したのは、3D CADシステムの刷新である。
これまでも3D CADシステムとしては「CATIA V5」(仏ダッソー・システムズ製)を利用してきた。だが刷新に向けては「最終候補を『CATIA V6』(同)と『NX』(米シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア製)の2つに絞り込み、それぞれを評価した」と、評価チームの主要メンバーであるラポ氏は話す。
システム刷新プロジェクトは2021年に始まった。ラボ氏は「組織の規模が大きく、最初の1年半は社内の各部門との合意形成や承認に注力した。その後に、ベンダーや専門家、デジタル担当者を巻き込み、15カ月をかけて評価を進め、CATIA V6の導入を決定した。約3年の期間をかけて、ようやく最適解にたどり着けた」(ラポ氏)という。
9つの評価基準を設け2つの候補を多角的に評価・検証
今回の評価においてボルボが期待した現行システムからの改善点は(1)持続可能性目標の達成、(2)エンジニアリング部門のコラボレーション強化、(3)リアルタイムのデータアクセス導入、(4)設計データへのアクセス性の向上の4点である。
中でも大きな問題点だったのは「製品開発に関する業務の約80%が必要なデータの検索に費やされ、多くの無駄な稼働や時間を要していたことだ」とラポ氏は打ち明ける。そのため評価には9つの基準を設定した(図1)。
基準1 =Capability Fit:機能適合度
基準2 =Technical Architecture:技術アーキテクチャー
基準3 =Total Cost of Ownership:総所有コスト
基準4 =Vendor Strategy:ベンダーの戦略
基準5 =Competence & Academia:専門性と学術性
基準6 =Vendor Partner Ecosystem:ベンダーのパートナーエコシステム
基準7 =Vendor Commitment:ベンダーのコミットメント
基準8 =Developing Partners:パートナーの育成
基準9 =Industry References:業界の事例
中でも軸になるのは基準1の機能適合度である。ラポ氏は「新しいシステムの機能が当社ニーズにどれだけ合致しているか、そして現行システムと比べて、どの程度の機能向上があるかを評価するために、約90のユースケースを用意してテストした」とする。結果「製品開発における一部の領域では75%の改善が見込まれた」(同)
基準2から9では次のような評価を実施した。
基準2=技術アーキテクチャー :システム全体を構成する技術的な要素に焦点を当てた。具体的には、ツールの複雑性、ネットワーク環境のスケーラビリティ(拡張性)、3Dモデルの形状を描画するカーネル、開発の方法論、システムのトレーニング要件などである。
基準3=総保有コスト :初期費用だけでなく現状から将来のシステム移行までを見据えた全てのコストを評価対象に比較検討した
基準4=ベンダー戦略 :AI(人工知能)技術、未来の労働力、サステナビリティ(持続可能性)の3つの大きなトレンドに焦点を当て、ベンダーに直接、取り組みの全体戦略と方針説明を求めた
基準5=専門性と学術性 :ベンダーが「どこに拠点を置き、どこから人材を確保し、どのように投資しているか」を確認した。加えて、学術面や技術面で保有する体制や、論文数や特許の取得といった能力を証明できる実績についても確認した
基準6=ベンダーのパートナーエコシステム :外部の協力会社やサードパーティーのプラグインとの連携を確認した。連携が円滑に進むよう、それらが、どのように統合管理されているかを評価した
基準7=ベンダーのコミットメント :過去の取引実績や他社の導入事例をベンチマークとして調査した。導入フェーズに移行した際に、どれだけの支援を提供してくれるかの体制なども確認した
基準8=開発パートナー :ボルボの関連子会社の見解・期待をヒアリングして評価に反映させた。選定結果が自社ビジネスに、どのような影響が及ぶかといった広い視野からも評価した
基準9=業界の事例 :競合の自動車メーカーの動向を確認した。個々の企業の動きだけでなく、自動車業界全体がどちらの方向に向かっているのかの把握に努めた

