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- AI協働時代の技能継承のカタチ〜技と知を未来につなぐために〜
ホスピタリティのための技能継承とAI活用【第9回】
人とAIが協働するためのサイクルを回す
人とAIが協力することで、観察しづらい判断の手がかりが可視化され、記録・振り返りの仕組みに載せられるようになる。結果、ホスピタリティの技能継承は初めて組織の中で扱える対象になる。技能継承のゴールは、熟練者と同じ行動を再現することだけではない。異なる状況に直面したときに、自ら考え、判断を引き受けられる人を増やしていくことも重要だ。
そのとき、人が引き受けるのは価値判断や責任を伴う決断である。AI技術が支えるのは状況整理や比較、振り返りだ。両者は主従関係ではなく補完関係にある。判断を手放すのではなく、適切な判断を出し続けられる環境を整えることで、技能は個人の経験に閉じるものから、組織の知へと変わっていく。
実務の観点では、こうした協働を支えるために、次のような取り組みが考えられる(図4)。
取り組み1 =判断の背景を簡潔に記録する「判断ログ」を残す:何を見て、何を選び、何を選ばなかったのかを短く記すだけでも、振り返りの質は大きく変わる
取り組み2 =定期的に判断を題材としたレビューや対話の場を設ける:結果ではなくプロセスを語る文化が技能継承を支える
取り組み3 =シミュレーションや壁打ちを通じて判断の言語化を訓練する
いずれも、人が価値判断や意思決定を担い、AIがその判断の背景やプロセスを記録・整理・振り返りの形で支えることを前提にしている。AIを前提にしなくても始められるが、AIはそれを加速させる存在になり得る。
ホスピタリティは感性やセンスの問題ではない。相手の状態や文脈を踏まえ、何をするか・何をしないかを選び取る判断技能である。判断として扱えるからこそ構造が生まれ、学習と継承の余地が開ける。
AI技術は、その判断を代替するものではないが、判断に至るまでの思考を可視化し、共有するための手段として機能する。適切な活用によって、熟練者の技能は属人性の中に閉じず、継承可能な知へと昇華していく。
西岡 千尋(にしおか・ちひろ)
アビームコンサルティング 執行役員・プリンシパル AI Leapセクター長。コンサルティングファームのマネジングディレクター、チャットボット開発企業のCDO(最高デジタル責任者)を経て、アビームコンサルティングに入社。テクノロジーとイノベーションによる社会貢献を進めるとともに、クライアント企業のDXやデータドリブン経営の実現を支援する。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。
滝本 真(たきもと・まこと)
アビームコンサルティング AI Leapセクター シニアマネージャー。大手通信会社においてプロダクトやサービスの企画・デザイン経験を積み、デザインコンサルにてUXデザインを活用した事業・サービス企画に従事。その後、戦略コンサルにおいてデザインを取り入れた戦略策定などを実施。アビームコンサルティング入社後はデザイン × ビジネス × テクノロジーの観点から、事業戦略立案からエグゼキューションまで一貫した支援を推進。iF DESIGN AWARD、Red Dot Design Award、HCD-Net AWARDなど受賞多数。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
田中 俊(たなか・しゅん)
アビームコンサルティング AI Leapセクター シニアマネージャー。複数のコンサルティングファームを経て現職。AIエージェント、量子コンピューティング、数理最適化などの社会実装に取り組んでいる。東京大学理学部物理学科卒。
