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そもそも「digitization → digitalization → DX」という流れは本当なのか【第5回】

DXの根本的な部分に納得していないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2025年9月12日

DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けては「digitization(デジタイゼーション) → digitalization(デジタライゼーション) → DX」の三段階理論がよく説明されています。しかし、この流れは本当なのでしょうか?この問はDXの本質について考えるなかでも大きな疑問の1つです。筆者がたどり着いた現時点の結論は「違う質の概念を並べているのではないか」「異なる概念が混ざっているのではないか」というものです。

 「digitization(デジタイゼーション) → digitalization(デジタライゼーション) → DX」の三段階理論における流れを考える前に、それぞれの用語を復習しましょう。まずは一般的な定義を採用し説明します。

digitization(デジタイゼーション)

 アナログなものを電子化することです。紙のプロセスをIT化するのがその典型です。しかし例えば、手書きの書類をスキャンしたものや、フォーマットがまちまちのExcelシートなどは、IT化されているとはいえ、コンピューターにとって必ずしも扱いやすいものではありません。ですので「digitization」は単純な電子化というよりも「コンピューターが可読な形式にすること」という理解が正確でしょう。

digitalization(デジタライゼーション)

 デジタルを使った効率化・自動化です。大きくプロセスを変革しないまま、一部をデジタルに置き換えて省力化したりします。例えば顧客に入力してもらった情報に関して、これまでは人間が目で見て評価していたステップを機械学習に置き換えるようなケースです。物理世界ではロボットの導入も関係するでしょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)

 ビジネスを変革することです。ビジネスプロセスを大胆に変更したり、新たなビジネスモデルに挑戦したり、デジタルを用いた新規事業を始めたりすることです。それに付随して、アジャイル(俊敏)な進め方を普及させたり、企業の組織構造を大きく変えたりということも論じられます。

 こうした定義を聞いた際に生じる疑問は「本当にdigitalizationの後にDXが続くのだろうか」というものです。そこには次のような問いかけが現れ、digitalizationとDXの順序関係にロジックが見えてこないという感覚に襲われるからです。

●自動化や効率化が、どうしてビジネスモデルの変革につながるのか
●先にdigitalizationをして人間の関与が小さくなるほど、ビジネスプロセスは硬直化し大きな変化を生み出しにくくなるのではないか
●個々のプロセスの効率化・自動化は、しばしば局所最適を志向するので、会社全体の変革は遠ざかるのではないか
●なぜビジネス変革は効率化・自動化の後に取り組まなければならないのか

 これらの問題に深く悩み、さまざまな有識者にお話を伺いました。いずれも示唆に富み、思考は広がり深まったものの、目の前に広がる光景を今ひとつ説明できないという思いは拭い切れませんでした。