- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
なぜ変革の話をしたいのにIT導入になってしまうのか【第9回】
DXの考え方に慣れないあなたへ

DX(デジタルトランスフォーメーション)の「X」は「Transformation:変革」を意味しています。その重要性は繰り返し主張されているにも関わらず、いまだに変革の一種であるとの認知は十分ではありません。変革の話をしていても「それのどこがDXなの?」「いつデジタルの話が始まるのかが分からず、何の話か理解できなかった」などと言われることも珍しくなく、すぐに従来同様のIT導入の話になってしまうのでしょうか。
例えば近年は、少子高齢化の影響から従業員の若返りやベテランの知識継承が経営課題になっています。その対策として、雇用をジョブ型にしたり年金制度を変更したりします。並行して知識継承策としてナレッジマネジメントやコミュニケーションのためのITツールを導入します。この取り組みはDX(デジタルトランスフォーメーション)なのでしょうか。
上記の例は、アナログな変革でもあれば、DXの側面もあると言えます。ただ、そもそもデジタルのみで成し遂げられるような変革は稀で、過去の経緯を受けたビジネスプロセスや、未来志向と既得権益のバランス、変化に臨む人の心など多面的な視点を考慮する必要があり、その視点の1つがデジタルであるに過ぎないのです。
「SX」の分かりやすさと「DX」の分かりにくさ
DXの対比として、昨今の社会課題である「SX(Sustainability Transformation)」を考えてみましょう。SXのスコープは、さまざまです。地球温暖化の防止やサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を目指す取り組みもあれば、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)のごく限られた項目への取り組みもあります。
いずれの場合でも、その取り組みは「SXだ」と理解しやすいのではないでしょうか。それはSXが掲げる大きなゴールが明確なためです。現在のビジネスを、どの程度変革させるかは難しい問題であるにせよ、いきなり議論が始められます。
一方のDXは「こうなればゴール」という一般的な定義がありません。技術分野としてのデジタルに言及されているだけですし、その最も重要なはずのキーワードである「デジタルとは何か」すら定義されていないのです。そのため、いきなりDXを議論しようにも、ゴールも手段も明示されないままに何を話すのか途方に暮れることになるのです。
その意味で筆者は、SXは「Transformation for Sustainability」であるのに対し、DXは「Transformation by Digital」なのだと考えています。つまり、ゴールが定義されているSXでは、それを経営課題の上位に位置付けるかどうかの判断が重要ですが、DXはゴールである経営課題の設定そのものが重要であり、その課題のうちデジタルが寄与できる部分に取り組むという構図です。
ここまでの解釈に対しては、きっと異論は出ないのではないでしょうか。にもかかわらず「DX」というと、なぜ過度にIT、特にAI(人工知能)技術のような先進的なITが強く意識されるのでしょうか。