- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそもDXを専門とするキャリアは魅力的なのか【第30回】
DX人材像がイメージできないあなたへ
面白さ3: 経営の本質に関わる
DXは、デジタルを用いて、さまざまな変革を実行することです。ですが、会社や職場のあり方もデジタル技術も、非常に多くの選択肢があるため、DXで目指せる姿は無数にあります。
その中で、あるべき姿を選び取ったり見出したりするには、ピラミッド型組織のなかで規定された役割を果たす専門家としての知識では足りません。はるか先を見据えている経営者の視野と、今日のことを考えている現場の要求を両立しなくてはいけません。あるいは遠く離れたバリューチェーンの端と端を、質の異なるイノベーションとオペレーションを、新しいやり方でつなぎ合わせる必要があります。
その過程で、通常の会社員生活では得られないような深く広い見識が得られます。それぞれの組織の特性や、本質的に追求している価値、時間軸の違いで見えなくなっている共通の思いなどは、普段は考えてもみない対象です。しかし、広大な選択肢から未来をデザインするには、それらを明らかにしたうえで、能動的なアクションを取らなければなりません。
「コンサルティングファームに勤めれば、若いうちから顧客の、さまざまな層と話をするので成長が速い」と言われます。まさに、それと同じことがDXでは起こるのです。会社員として経営の本質に迫れることは非常に興味深いはずです。
「他社でもなんとかなる」というキャリア自律性が高まる
最後に、面白さ以外の魅力に「キャリア自律性」があります。「今の会社で何かあったとしても他の会社で何とかなる」という感覚のことです。キャリア自律性が高ければ、仕事のパフォーマンスが良いだけでなく、実はワークエンゲージメントも高い傾向があります。つまり「他社でも務まる」と思いながら働いている人の方が、実は目の前の仕事に熱心で成果も出すということです。
DXに従事するとキャリア自律性が高まるというのは、現時点では需給バランスによるところが大きいと思っています。DX人材は不足しているため転職先が容易に見つかるという意味です。
しかし、それ以上に重要だと思われるのは、これまで述べてきたように、DXが問題発見型・問題解決型の業務であり、専門知識に基づいて定常的なタスクを消化する業務ではないことです。経営の本質に迫れることとも関係するでしょう。
変化が速く、その幅が大きな時代において、タスクを受け取ってこなす仕事は外注化され、あるいはAI(人工知能)技術やロボットとの競争に晒されるリスクがあります。
DXは、新しい製品やサービスを生み出すこともあれば、既存ビジネスのモデルやプロセスを変革することもあります。社内に深く分け入ることも、社外や未来を遠く見ることも必要です。これらの能力と経験を有することが、将来のキャリア安全性をもたらすと考えられます。
つまり、DX専門家のキャリア自律性は、ITの専門知識のみに由来するものではありません。むしろ、技術と社会の変化に呼応したDXという業務に従事することで「変化に強くなる」ことと「受け取るのではなく生み出す側に回れる」ことが本質だと考えます。
成功確度が低いだけに楽しんで続けたい
こうやって長所を挙げてみると、明らかに好き嫌いの分かれる職種でしょう。心安らかに日々同じことに集中して暮らしたい人からすれば、こんな職場に放り込まれたら心底うんざりすると思います。「そもそも仕事の体を成していない」と感じられるかもしれません。
それは一面では正解です。上述したように、DXが研究やアートと似ているとすれば、それと同様に、成功確率が低い仕事は好きでなければ続かないからです。
また本稿を「好きな人にとっては面白い」という同語反復的で、つまらない趣旨だと受け取ることもできるでしょう。それも正解です。ただ別の言い方をすれば「DXをやるからには楽しんでみましょう」というメッセージでもあります。
「仕事はつまらなくて苦しいものだ」という価値観もあります。ですが、そうした姿勢では、とてもDXは続きません。長く困難な旅路だからこそ、自分を見つめ直しつつもリラックスして取り組む方がずっといいと思います。
磯村 哲(いそむら・てつ)
DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。