• Column
  • 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋

『金融生成AIガイドライン』は業界の“攻め”と“守り”の両立を目指す

「Fintech Business Informatics 2026」でのFDUA企画パネルディスカッションより

森 英信(アンジー)
2026年4月30日

金融業界におけるデータ活用を業界横断で底上げを図っている金融データ活用推進協会(FDUA)が「Fintech Business Informatics 2026」(主催:本プログラム委員会、共催:インプレス、2026年1月20日)において企画したパネルディスカッションにFDUAの『金融生成AIガイドライン』の策定メンバーが登壇。ガイドライン策定の背景と金融機関における活用策について議論を交わした。(文中敬称略)

佐藤 竜介 氏(以下、佐藤) :東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部 マネージャーの佐藤 竜介です(写真1)。生成AIワーキンググループのワーキンググループ長を務めています。金融データ活用推進協会(FDUA)は2022年に社団法人として設立され、現在は400を超える金融機関とパートナー企業が参加しています。2023年7月には後に『金融生成AIガイドライン』を作成する「生成AIワーキンググループ(WG)」が発足しました。どのような経緯で始動したのでしょうか。

写真1:東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部 マネージャー 佐藤 竜介 氏

阪本 雅義 氏(以下、阪本) :日本生命保険 IT統括部 上席専門課長の阪本 雅義です(写真2)。生成AIワーキンググループのワーキンググループ長代行を務めています。

写真2:日本生命保険相互会社 IT統括部 上席専門課長の阪本 雅義 氏

 「ChatGPT」の登場後、2023年春頃から各金融機関で生成AI(人工知能)技術の活用に対する議論が活発化しました。その中で「可能性はあるが留意しなければならないことが多い」という声がFDUAの会員から聞こえてきたのです。「会員が協力すれば乗り越えられるのではないか」との思いから「生成AIワーキンググループ」を立ち上げました。

 金融機関が生成AI技術を利用しようとすると、そこには金融業界特有の事情があります。膨大なデータ、プライバシー性の高い個人情報、金融関連の法規制など金融機関として避けられない制約があることです。そこで金融生成AIガイドラインでは、一般論ではなく、金融業界の担当者が手にした際に「使えそうだ」と思えるだけの実践的な内容を目指しました。

 2024年夏に初版をリリースし、2025年夏には最新情報を盛り込んだ『第1.1版』にアップデートしました。『AI事業者ガイドライン』などと組み合わせれば、各金融機関の運営指針の参考になると自負しています。生成AI活用における“攻め”と“守り”の両方の領域で役立つと思います。

「未着手」企業が2024年の41%から2025年の5%に激減

佐藤 :FDUAでは会員企業を対象に生成AI医術の活用状況についてアンケートを実施しました。その結果をどうみますか。

阪本 :最も印象的なのは生成AI活用未着手企業が急減したことです。「まだ使っていない」との回答が2024年には41%だったものが2025年は5%でした(図1)。

図1:金融データ活用推進協会(FDUA)会員の生成AI活用状況の2024年と2025年の比較

 FDUAでは生成AIの活用レベルを定めています。アンケートでは「社内で汎用利用」とするレベル1は2024年の37%が2025年には44%に高まりました。「社内情報参照」のレベル2は18%から39%に増加しています。

 一方で「顧客向け利用」のレベル3は2025年も10%にとどまりました。レベル3では、ハルシネーション(幻覚)などの課題に対し考慮すべき事項が非常に難しいからでしょう。

楠戸 健一郎 氏(以下、楠戸) :EYストラテジー・アンド・コンサルティング 金融サービスリスクマネジメント(FSRM)ディレクターの楠戸 健一郎です(写真3)。ガイドラインの初版から事務局として携わってきました。生成AI活用を推進するには“攻めと守り”の両面から考慮する必要があります。

写真3:EYストラテジー・アンド・コンサルティング金融サービスリスクマネジメント(FSRM)ディレクター 楠戸 健一郎 氏

 “攻め”の生成AI活用では、ITシステムやオペレーションが先行している領域です(図2)。

図2:金融業界における生成AI活用には4つの領域がある

阪本 :社内情報を参照する、いわゆるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の仕組みは、回答精度が業務側の期待値にそぐわないことから進んでいないケースがあります。一方で、コーポレートやオペレーションの領域では、一定のリテラシーを持つ担当者が利用し、求められる回答の参考にしたり、原点に当たることを容易にしたりするといった使い方が比較的進んでいます。

 「精度が限りなく100%でなければと使わない」という姿勢では生成AI活用は浸透しません。人間を適切に関与させる「Human in the Loop」の考え方が現実的な活用の鍵になります。