- Column
- 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋
AI・データ活用の成果は組織設計や標準化の有無が左右する
「Fintech Business Informatics 2026」でのFDUA企画パネルディスカッションより
金融業界におけるデータ活用を業界横断で底上げを図っているのが金融データ活用推進協会(FDUA)だ。FDUAが「Fintech Business Informatics 2026」(主催:本プログラム委員会、共催:インプレス、2026年1月20日)において企画したパネルディスカッション「金融業界のAI・データ活用レベルアップに向けた取り組み」では、データ活用において現場が直面する課題や今後の方向性について議論が交わされた。(文中敬称略)
金融データ活用推進協会(FDUA)が企画したパネルディスカッション「金融業界のAI・データ活用レベルアップに向けた取り組み」は、ナビゲーターとして登壇したセブン銀行 AI・データ戦略部 部長の中村 義幸 氏の講演と、それに続くパネルディスカッションの2部構成で開かれた。
金融データの活用レベルを組織・業界として高めたい
まずナビゲーターの中村氏は冒頭「金融業界におけるAI(人工知能)技術やデータの活用は確実に前進している。しかし、その成熟度や成果にはバラツキがある。それらを組織として、どう底上げしていくのかが次の課題だ」と切り出した。
生成AI技術の普及により、金融機関は業務効率化や顧客接点の高度化に向けた取り組みを加速させている。一方で「データ活用が一部部署や人材に依存し、組織全体としての戦略やガバナンスに十分組み込まれていないケースも少なくない」と中村氏は指摘する。「成果が出ている企業と、手応えを得られていない企業との差は、単なる技術力の違いではなく、組織設計や標準化の有無にある」(同)とする。
そうした問題を解決するために設立されたのが金融データ活用推進協会(FDUA)である。「金融データで人と組織の可能性をアップデートしよう」というミッションを掲げ、データ活用の標準化と高度化を金融機関や関連企業が連携して進められるよう活動している。
FDUAの参加企業は400社を超え、その半数以上は金融機関である。銀行やカード会社、保険会社、証券会社などが業態を超えて議論している。中村氏は「非競争領域は、個社が試行錯誤を続けるのは非効率だ。業界横断での標準化が重要だ」と訴える。
FDUAが策定する標準化の1つに「金融データ活用組織チェックシート」がある(図1)。利用データ、組織、データ基盤、人材育成、ガバナンス、ビジネス効果の6テーマそれぞれについて10の質問に答えれば、データ活用の成熟度が可視化される。金融機関はデータ活用レベルを自己評価できる。
中村氏はチェックシートについて「各社が独自の指標や体制で取り組んでも、成果の比較やノウハウ共有が難しい。しかも感覚的に『進んでいる』『遅れている』と語るのではなく、共通の物差しで現状を把握することが重要だ」と話す。
金融機関のデータ活用は2極化の傾向が強まっている
金融データ活用組織チェックシートの利用状況に関する2025年版の調査結果によれば「全体としてスコアは前年より向上しており高スコアの金融機関が増えている」(中村氏)。ただ「その伸びは一様ではなく、2極化の傾向が強まっている。戦略やトップコミットメントが明確な企業が着実にスコアを伸ばしているのに対し、体制整備や人材育成が追いついていない企業では停滞が見られた」(同)という(図2)。
特に差が顕著だったのが「データ基盤と人材育成の領域だ」と中村氏は話す。生成AI技術の導入やPoC(Proof of Concept:概念実証)が進んでいても、それを継続的に活用できる基盤や、分析を担う人材の育成が不十分では成果は限られる。中村氏は「ツール導入とレベルアップはイコールではない。組織的な設計が重要だ」と強調する。
各項目間の相関分析結果からは「ガバナンスの整備が進んでいる企業ほど、ビジネス成果や人材育成のスコアも高い傾向が見られた」(中村氏)という。「データ活用は、しばしばスピード重視で語られる。だが、ルールや責任範囲を明確にし、リスクを適切に管理する体制があってこそ、継続的な活用が可能になることが示唆されている」(同)
ビジネス成果と人材育成の間にも一定の相関が見られた。「データサイエンティストや分析担当者の育成に投資している企業ほど、新規施策の創出や業務改善の成果が出やすい傾向がある。単発のプロジェクトではなく、組織としての学習サイクルを回せているかどうかがレベルアップの分かれ目になっている」と中村氏はみる。
なおFDUAでは金融データ活用の啓発策として、模範的な取り組みを表彰する「FDUAアワード」を毎年実施するほか、2026年1月には『金融データ活用組織ベストプラクティス』を出版し、組織として目指すべき姿や具体的事例を紹介している。


