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- 金融業界におけるAI時代の技術実装の道筋
金融機関の生成AI活用は実証段階から実装段階へ
「Fintech Business Informatics 2026」より、FINOLAB Head of FINOLAB/CCO 柴田 誠 氏
「ChatGPT」登場から3年が経過し、金融機関の生成AI(人工知能)技術の活用は実証段階から実装段階へと移行しつつある。具体的な導入例が登場している一方で、従来のシステム案件とは異なる課題も浮き彫りになってきた。FINOLABのHead of FINOLAB/CCOである柴田 誠 氏が「Fintech Business Informatics 2026」(主催:本プログラム委員会、共催:インプレス、2026年1月20日)に登壇し、実務担当者へのヒアリングから見えてきた7つの活用領域と導入アプローチの要諦を解説した。
「2022年11月の生成AI(人工知能)技術をチャットサービス「ChatGPT」(米OpenAI製)の公開から約3年が経過した。金融機関大手は当初の実証利用から実装段階に移行しつつあり、中小金融機関との差が拡がっている」--。FINOLABのHead of FINOLAB/CCOである柴田 誠 氏は、こう指摘する(写真1)。FINOLABは、FinTechのエコシステムの形成と新規ビジネス創出を目的とした会員制コミュニティだ。
ChatGPTの利用者数は、登場から2カ月で1億人を突破し、現在では8億人超に達している。現在では、ChatGPTだけでなく「Claude」(米Anthropic製)や「Perplexity」(米Perplexity製)、「Gemini」(米Google製)などさまざまな生成AIモデルが登場し「性能や利用目的、他のソフトウェアとの連携などの違いから選択肢が広がっている状況だ」と柴田氏は話す。
ChatGPTの登場から3年で7つの活用領域が明確に
これまでにFINOLABは、多くの金融機関の実務担当者へのヒアリングを重ね、金融分野における生成AI技術の活用領域を次の7領域に整理した。対顧業務の(1)顧客サービスとエクスペリエンス、(2)商品開発とイノベーション、(3)マーケティングとセールス、内部業務の(4)リスク管理、(5)コンプライアンスと規制報告、(6)オペレーション、そして横断的な(7)サイバーセキュリティである(図1)。
柴田氏は「顧客の過去の取引履歴や行動パターンを分析し、個々の顧客に最適な提案ができるパーソナライゼーションが進むと考えられる」と説明し、各領域での具体的な活用事例を挙げる。
(1)顧客サービスとエクスペリエンス :住信SBIネット銀行は顧客向け生成AIチャットボット「ヘルピッピ」を内製開発し、2024年11月にサービスを開始した。文脈を保持した自然な対話が可能で、高い回答精度と出典元の明示による透明性を担保する。1年以上の運用で回答精度が向上し、コンタクトセンターへの問い合わせ負荷軽減に役立っている。
(2)商品開発とイノベーション :りそな銀行が営業コンサル支援への活用を進めている。顧客である大手・中堅企業とスタートアップが共創において、属人的になりがちだった協業を誰でも効果的に提案できるようにするのが目的だ。業務支援SaaS(Software as a Service)の「TAILOR WORKS」(テイラーワークス製)により、顧客の事業リサーチから課題の推察、市場動向調査、提案作成までを支援する。
(3)マーケティングとセールス :三菱UFJ銀行がAIエージェントを使って顧客データを一元化し営業力の強化を図っている。2025年4月より「Financial Services Cloud」(米Salesforce製)を導入。さらに「Agentforce for Financial Services」(同)も活用している。
(4)リスク管理 :みずほフィナンシャルグループが審査プロセスに生成AIを活用し、書類作成の効率化、業務負荷の軽減、審査ノウハウの標準化を図っている。若手行員や中途採用者の経験/スキルレベルのバラツキをサポートし、審査品質を保ちつつノウハウ継承を図る。
(5)コンプライアンスと規制報告 :金融庁は「Fintech実証実験ハブ」でコンプライアンス違反確認業務の実証実験を実施した。金融商品販売時の説明内容のチェックや顧客からの苦情抽出に生成AIを活用し、効率化・高度化が検証された。
(6)オペレーション :三菱信託銀行は社内の問い合わせ用途に利用する。専用アルゴリズムをスタートアップのカサナレが開発し、システム仕様書や業務マニュアル、FAQ(よくある質問と答)を学習させた。実証実験では、専門的な金融知識が求められる問い合わせに対する正答率が90%を超えた。2024年4月からは業務に利用し、担当部署の対応時間を50%削減したという。他領域に広げれば年間数十万時間以上の効率化が図れると試算する。
(7)サイバーセキュリティ :ディープフェイクへの対応が課題になっている。従来のeKYC(electronic Know Your Customer)「ホ」方式が2026年に無効化される中、セブン銀行はATM(現金自動預払機)にAI技術を使って偽造画像を検知する顔認証「FaceCash」を導入した。

