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ブリヂストン、工場の設計変更を共同検証する社内メタバースを構築

Industrial Transformation Day 2026より、エンジニアリング業務支援標準管理部の植田 省吾 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2026年6月22日

メタバースの有効性を実証し、実務レベルの課題から自社開発を決断

 マルチプレイのVRレビューの効果を試すため、植田氏が2022年に評価を始めたのがメタバース基盤「Cluster』(クラスター製)である。開発キット「Cluster Creator Tool Kit」を使って業務用の空間を再現し、離れた拠点から同時にログインし、業務ができるかをテストした(図2)。実際に効果を実感したうえで「社内メタバースの自社開発を決断した」と植田氏は話す。

図2:社内メタバースによるマルチプレイVRレビューの概要

 今ではビジネス用途の事例があるClusterだが「当時は工場のような秘匿性の高い個別空間で、VRを使うサービスとしての想定がされていなかった」(植田氏)という。「VRアプリケーションの開発経験はあったが、複数の機能を統合したメタバースの構築は初めての試みだった」(同)。

 そこでゲームエンジンの開発を手掛ける米Unity日本法人に声をかけ、プロトタイプの開発を委託した。提示した仕様は「グローバルでの使いやすさとセキュリティを考えたもの」(植田氏)である。アクセス権やデータの管理は運営側が担い、社員限定の安全なネットワークとして構築。同時接続数は最大で50人程度を想定した。

 利用者はITの専門知識を持たないユーザーを想定し、初見でも迷わないよう「入力や選択の手間を減らしたシンプルなUI(User Interface)を採用」(植田氏)したほか、言語は英語に統一している。

 システム面では、アバターやシーンの切り替えといった基本機能を備えつつ、PC版では通常画面とVR画面の切り替え、Android版では「Meta Questストア」での配布を前提としたVR専用設計とした。

 これらを効率よく開発するため「通信(Netcode)や音声(Vivox)、基本動作(Open XR)にはそれぞれUnityの標準アセットを駆使している」(植田氏)という。作成後は「社内で継続して開発するためのアップデートを図りやすくする」(同)のも理由の1つだ。

設計レビューの真剣度を高めて意見を活発にする

 社内メタバースを定着させるため、空間内にはスタンドアロンでセルフ学習ができるチュートリアルルームを用意している(図3)。「初回は経験者に立ち会ってもらい、着座で体験してもらう機会を設けて心理的・操作的なハードルを下げる」(植田氏)よう工夫している。

図3:社内メタバースのチュートリアルと安全対策の概要

 実際に本格活用を始めたところ「さっそく良い変化が見られた」と植田氏は話す。フォークリフトの体験など、単なるデモでVRを試してもらっていた時とは異なり「自分たちが使う本番用の設備チェックとなると真剣度が上がった」(同)という。設計レビューでも「以前は1時間で1〜2つしか出なかった意見が、今は5分に1回意見が出るようになった」(同)

 制作前段階であれば、意見を反映させた上で設計変更も間に合う。エンジニアには「『一緒に開発している』という当事者意識が生まれるようになった」と植田氏は強調する。意見が形になることを体感した人たちはVRの効果が分かるため、次回もVRレビューを要望する。さらに「他部署への口コミによって活用先が勝手に広がっていく」(同)ループも生まれた。

 現在、ユーザーの多くはAndroid端末のVRゴーグル「Meta Quest」(米Meta製)でVRを実行しているが、一部はPCにゴーグルをつなぐPC-VRで実行している。その場合「映像が精細で細かい部分までリアルに再現できるため、会議室などでレビューをする場面で使っている」(植田氏)という。