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ブリヂストン、工場の設計変更を共同検証する社内メタバースを構築

Industrial Transformation Day 2026より、エンジニアリング業務支援標準管理部の植田 省吾 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2026年6月22日

工場や設備などの生産インフラを整備するエンジニアリング業務で鍵を握るのが、計画・設計段階でのレビューだという。その精度を高めるためにブリヂストンは、独自のメタバースを構築してエンジニアからの活発な議論を募っている。同社 エンジニアリング業務支援標準管理部 植田 省吾 氏が「Industrial Transformation Day 2026」(主催:インプレス、2026年3月13日)に登壇し、開発の経緯とXR(Extended Reality:各種の現実仮想融合)技術による検証の効果を話した。

 「工場は一度完成すると、導線の変更や設備の再配置がしづらくなる。そのため現場は常に、計画・設計段階で十分に確認し、満足のいく仕上がりで作りたいという思いを抱えていた」--。ブリヂストン エンジニアリング業務支援標準管理部の植田 省吾 氏はこう話す(写真1)。

写真1:ブリヂストン エンジニアリング業務支援標準管理部 植田 省吾 氏

 1931年に創業し、タイヤメーカーとしてグローバルに事業を展開するブリヂストンは、乗用車用のほか、トラック・バス、鉱山車両、航空機用のタイヤを生産している。他にも、油圧ホースや免震ゴム、ゴルフボールなどのスポーツ製品を手掛ける。

 コア事業の他に、成長事業として注力するのが、タイヤを“使う”段階で価値を高めるソリューション事業である。例えば、トラックのタイヤが摩耗やパンクで使えなくなるとビジネスに影響を被る。そこで「普段の使い方から、メンテナンスまでを取り扱うサービスを提供する」(植田氏)という。

 社会価値の提供に向けた技術開発も推進する。タイヤのリサイクルはその1つ。従来、燃料として生まれる熱をエネルギーとして使うのが主流だったが「新品のタイヤの原材料として使うためのマテリアルリサイクルを研究している」と植田氏は話す。他にも、空気充填が要らない次世代タイヤ「AirFree」の開発や、ソフトロボティクスなどの研究にも取り組んでいる。

巨大プロダクトは3Dデータを見てもサイズ感が分からない

 ブリヂストンの生産拠点数はグローバルで105カ所。このうち新品タイヤの生産拠点は46カ所で、このうち10カ所が国内にある。

 これらの工場で生産ラインを準備・整備したり、工場を設計・建設したりする業務がエンジニアリングだ。植田氏によれば「初期段階で仕上がりを確認する設計レビューが成否を握っている」という。

 その設計レビューを難しくしているのは「生産マシンの物理的な巨大さ」(植田氏)である。中でも、鉱山用トラックや、航空機のタイヤのマシンは顕著だ(図1)。植田氏は「これだけ大きな3D(3次元)モデルをスクリーン越しに見ても、実際のサイズ感をうまくつかめない」と話す。

図1:生産マシン、鉱山用トラック、航空機などのタイヤは巨大で、3D(3次元)モデルではスケールをつかみにくい

 この課題を解決するために、ブリヂストンはVR(Virtual Reality:仮想現実)技術を使う設計レビューの導入を始めた。特に「大きなプロダクトを実物サイズで体験してもらう」(植田氏)のが狙いだ。

 それまでもエンジニアの理解を助けるために、3D図面とレンダリング画像で見た目のイメージに工夫をこらしたり、自由視点の3Dビューアによって空間の奥行きを映像化したりすることにチャレンジしてきた。それを「3~5分のCG(Computer Graphics)動画にまとめ、理解を促すことも試みてきた」(植田氏)という。

 手を尽くしたが、現場からは「『やはり実物を見ないと分からない』という意見が消えなかった」と植田氏は振り返る。特に、モデルが初見に近いエンジニアには「3Dで見せられても空間をイメージできず、意見が言えないという状況もあった」(同)

 実際、VRレビューの導入がもたらした効果の1つ目は、直感的な心象や使い勝手の検証だ。実物大の空間に立てば「作業がしやすいか、快適かどうかを推し量れる」(植田氏)ためだ。「普段通りの作業シーンを体験することで、スキルの有無に関わらずに意見を言えるようになる」(同)

 2つ目は、行けない場所や持っていない設備の再現だ。危険やコストを気にせず、現実同様の検証を何度でも繰り返せる。「これから作ろうとしている設備についても納得が行くまで意見を出し合い、設備そのものやレイアウトまでの最適化につながっている」(植田氏)

 3つ目は、マルチプレイ(共同作業)だ。離れた事業所にいるエンジニアが同時に同じ仮想空間に入ることで「目の前にある設備に対してリアルタイムにコミュニケーションを取ることで、意見交換の精度が高められている」(植田氏)という。