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  • スマートホームで越境する空間ビジネスの好機

デジタルキーが「鍵」の分断を解消する【第3回】

新貝 文将(X-HEMISTRY 代表取締役/CSA日本支部 代表)
2026年8月20日

 Aliroが企業にもたらす価値は、単なる利便性の向上にとどまりません。特に重要なメリットとして(1)失効の即時性、(2)規制リスクの低さ、(3)メーカーを問わない相互運用性、の3点が挙げられます。

 失効の即時性は、端末を紛失しても、その鍵だけをクラウド経由で無効化すれば、他の利用者には一切影響しない点を指します。

 規制リスクの低さは、認証情報を端末側に分散保持する設計によるものです。顔や指紋のような生体データを中央データベースに一元保管する方式と比べて、情報漏えい時の法的リスクを構造的に抑えます。海外では実際、暗号化されていない大量の指紋・顔認証データが外部から閲覧可能な状態で見つかり、政府機関や金融機関に影響が及んだ事例も報告されています。

 相互運用性は、複数拠点・複数ベンダーが混在する商業施設の運用コストそのものを引き下げるという点です。

セキュリティとプライバシーの最適解を採る

 UWBを用いたAliroのハンズフリー解錠は、一見すると顔認証によるハンズフリー入室と同じ体験に見えます。しかし両者は「何を確認しているか」という認証対象が根本的に異なります。

 顔認証は身体的特徴そのものを認証する仕組みです。端末を持たない身軽さを実現する一方、写真や精巧な模造によるなりすましのリスクを抱えます。生体データは一度漏えいすると変更が利かないうえ、通行するすべての人の顔情報を常時取得し得る構造になりがちです。これは、来訪者を含めた同意設計が課題になりやすく、実際に米国などでは訴訟・規制リスクにもつながっています。

 これに対してAliroが認証しているのは「登録済みの端末を携帯している状態」です(図3)。万が一の紛失時にも、鍵の失効・再発行という手段があり、登録した本人のみが認証対象になるため、プライバシー侵害のリスクを低く抑えます。ただし、スマートフォンなど端末そのものを渡してしまえば、他人でも通過できてしまうというリスクも残ります。

図3:UWB(超広帯域無線)によるハンズフリー解錠は端末の携帯を認証

 このように両者は、どちらか一方が優れているという競合関係ではありません。区画に求められるセキュリティレベルに応じて組み合わせる「補完関係」として捉えるべきでしょう。

共通規格と日本発の「継続認証」が切り拓くセキュリティ

 Aliroは「セキュアな端末」を厳密に認証します。しかし認証時に「そのデバイスを持っているのが本当に登録者本人か」までは、担保できません。

 この課題を補うのが、日本発の技術である「継続認証」です。その開発を手掛けるAnchorZ(アンカーズ)の「DZ Security」は、顔や声、端末利用時のクセといった複数の要素をバックグラウンドで随時認識し、スマホを本人が持ち続けているかを継続的に確認する技術です。国際的な特許を多数取得しており、国際学会での論文採録実績を持つなど、技術的な評価も得ています。

 認証情報を端末内で完結させ、中央データベースに集約しないという設計思想はAliroとも共通しています。将来的には「Aliro + DZ Security」のような「国際標準規格 + 独自技術」の組み合わせが、商業空間やオフィスのセキュリティをもう一段引き上げる可能性を秘めています。どのように組み合わさっていくのかは、今後の業界動向として注視する価値があるでしょう。

 「鍵」の分断という一見地味な課題は、複数拠点を運営したり、エリアセキュリティを求めたりする企業にとって、コストと安全性の両面で無視できない経営課題になりつつあるのです。次回は不動産経営の変革を取り上げ、建物OSが資産価値をどう高めるのか、米国の「スマートアパートメント」を例に解説します。

新貝 文将(しんがい・ふみまさ)

J:COM グループでさまざまなインターネット関連サービスの事業立ち上げを経て、2013 年から東急グループでスマートホームサービス「intelligent HOME」のサービス立ち上げを牽引し、Connected Design の CEO に就任。その後、スマートホームベンチャーのアクセルラボの COO/CPO としてスマートホームプラットフォーム SpaceCore の立ち上げを牽引したあと、株式会社 X-HEMISTRY を設立。豊富な事業立ち上げ経験を活かした伴走型ハンズオン支援や実行支援を展開。世界中の IoT 関連企業とのコネクションも幅広く持つ。2024 年 4 月に発足した Connectivity Standards Alliance 日本支部の代表に就任し、スマートホームのグローバル標準規格「Matter」やスマートロックの標準規格「Aliro」の普及推進を牽引。