- Column
- スマートホームで越境する空間ビジネスの好機
デジタルキーが「鍵」の分断を解消する【第3回】

前回は、住宅向けスマートホーム基盤がBtoB(企業対企業)展開を遂げ、大企業の特権だった空間管理を中小企業にも民主化しつつある実態を解説しました。第3回では、空間管理の要となる「アクセスコントロール(入退室管理)」に焦点を当て、スマートキーの国際標準規格「Aliro(アリロ)」によって「鍵」が抱えるコストやセキュリティリスクを解決する展望を解説します。
前回は、住宅向けのスマートホーム基盤がビジネス空間の管理ツールへと進化しつつある動向を解説しました。防犯カメラやスマートロック、アクセスコントロール(入退室管理)といった機能を、1つのダッシュボードで一括管理する仕組みは、その象徴といえるでしょう。
一方で、その入り口を守る「鍵」そのものの分断は、企業に見えないコストとセキュリティリスクを生み続けています。今回はアクセスコントロールに焦点を当て、企業が抱える課題を読み解きます。
現行の「鍵」が積み上げる見えないコスト
筆者は最近、訪問先の企業から入館用のQRコードを事前に受け取る場面が増えたと感じています。これが「便利なようで不便」という、なんとも言えない体験を生んでいます。当日になって「QRコードはどこにあったか」とメールやチャットを慌ててさかのぼった経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかも、QRコードは画面を見せるだけの認証で、複製や転送も容易であり、セキュリティという観点では「ざる」に近いのが実情です。便利さの裏側で本人確認の強度としては限界を残しています。
こうした入退室管理の仕組みをアクセスコントロールと呼びます。多くの企業にとってアクセスコントロールは導入すれば完了、ではありません。カードや鍵の発行・交換、来訪者や契約社員の入れ替わりに伴う権限管理、監査対応のためのログ確認といった日々の運用コストが静かに積み上がっていきます。
また、ソフトウェアライセンスや管理工数、紛失時の再発行費用が当初の見積もりに含まれない「隠れたコスト」として予算を圧迫します。特に契約社員や来訪者の出入りが激しい施設ほど、この負担は膨らみやすいのが実情です。
さらに、広く使われているカードキーを使う方法の多くは、安価な機器を使って複製が可能なものも多く、商業ビルなどにおける代表的な脆弱性の1つに数えられています。
こうした運用コストの根本には「相互運用性の欠如」という業界構造があります。従来のアクセスコントロールは、リーダー、コントローラー、管理ソフトウェアがメーカーごとに独自仕様で結び付いており、一度導入すると別ベンダーの製品同士の組み合わせが難しくなります。複数拠点を持つ企業であれば、拠点ごとに異なるシステムが並立し、それぞれに管理画面と運用ルールが存在するという状況も珍しくありません。
さらに、従業員が自宅の鍵のほかに、社員証やホテルキーなど複数の鍵を受け取り、持ち歩く鍵の分断は、個人にとっては些細なストレスに見えていても、企業側から見ればシステムの重複投資とヘルプデスク対応の増加という、れっきとした経営コストとなっています。
共通規格が「鍵」の相互運用性を高める
こうした課題を解決する国際標準規格として注目を集めているのが、第1回で触れた「Connectivity Standards Alliance」が策定する「Aliro(アリロ)」です(図1)。スマートフォンやウェアラブル端末を、メーカーを問わず使える共通のデジタルキーへと変える規格で、すでに主要な米Apple、米Google、韓国Samsungが「ウォレット」機能での対応を表明しています。
利用者は自分の端末をAliro認証済みのリーダーにかざすだけで解錠したり、UWB(Ultra-Wide Band:超広帯域無線)を使ってハンズフリーで解錠したりできます。住宅向けスマートホームのみならず、オフィスやホテル、大学キャンパスに至るまで、同じ体験で入室する仕組みが実現します。
Aliroは「シンプルさ」「柔軟性」「セキュリティ」「相互運用性」の4原則で設計されており、商業空間を含む幅広いユースケースを開発当初から視野に入れています。
なお、スマートホーム機器同士をつなぐ標準規格「Matter(マター)」とは補完関係にあり、Aliroに対応させるためにMatter対応が必須というわけではありません(図2)。前述のQRコードが抱える課題も、Aliroが解決しようとしているものの1つです。端末が安全に保持するデジタルキーは、画面をキャプチャーして第三者へ転送するといった単純な複製が事実上不可能で、メールやチャットをさかのぼって探し回る必要もありません。

