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- スマートホームで越境する空間ビジネスの好機
スマートアパートメントが不動産の収益構造を変える【第4回】

前回は、アクセスコントロール(入退室管理)に焦点を当て、国際標準規格「Aliro(アリロ)」によるデジタルキーによって「鍵」が抱えるコストやセキュリティリスクが解消されていく展望を解説しました。第4回では、スマートホーム化がもたらすメリットを不動産経営の視点から捉え直し、北米の先進事例「スマートアパートメント」を例に、物件価値を高める新たな収益構造の可能性について解説します。
北米の戸建て住宅を見ると、スマートホームの考え方が必要なデバイスを入居後に買い足す形から、住宅の購入時点で必要な設備を組み込んでおく形へと変わりつつあります。
例えば住宅建設大手の米D.R. Hortonは、対応物件に接続用ハブ、ビデオドアベル、スマートロック、サーモスタット(温度調節器)などをまとめたパッケージを提供しています。すべての住宅会社が標準採用しているわけではありませんが、米国ではスマート設備を物件販売時の付加価値として組み込む住宅建設企業が増えています。
賃貸住宅でも、スマート設備は物件を選ぶ際の価値になっています。賃貸住宅テックの米Rentlyが、2025年に米国の賃貸住宅入居者500人を対象に実施した調査では、65%がスマート設備に追加の賃料を払う意向を示し、52%が月20ドルを超える追加負担を受け入れると回答しました。
つまりスマートホーム化は、入居者の利便性を高めるだけではありません。賃料への転嫁や入居者の定着につながる、物件の競争力を左右する要素になっているわけです。
スマートアパートメントはオーナーに収益をもたらす
こうした需要を背景に伸長するのが、集合住宅向けにスマートデバイスとPMS(Property Management System:物件管理システム)などの管理用ソフトウェアを組み合わせて提供する「スマートアパートメント」です。
代表例が、2017年創業の米SmartRentです。同社IRサイトによると、導入戸数は2021年末の約34万戸から、2026年6月末には約93万戸に拡大しており、全米の集合住宅オーナー・運営会社上位20社のうち15社を顧客に持ちます。
SmartRentの事業展開を時系列で追うと、スマートデバイスの導入を起点に、物件運営そのものを支援する方向に振ってきたことが分かります。実際、2022年には保守・点検向けSaaSの米SightPlanを買収し、SaaS(Software as a Service)による継続収益を取り込む事業構造へと軸足を広げています。
2025年通期は総売上高が前年比13%減の1億5230万ドルだったものの、その内SaaSの売上高は5780万ドルで38%を占めました。2026年第2四半期には、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)が6450万ドルと、導入戸数の拡大を背景に前年同期比で13%増えています。
物件オーナーにとっては、SaaSの導入がスマート化による収入増加とコスト削減の両面を狙える構造になります(図1)。SmartRentは顧客からのフィードバックを基にした参考値として、1戸当たり月30〜60ドルの賃料収入増、空室時の光熱費20〜30%削減、漏水による損失・コスト70〜90%削減などの効果を挙げています。
こうした収入増や経費削減は、単なるキャッシュフローの改善にとどまりません。実際に不動産投資では、物件から生み出す収益の増加が物件価値そのものに影響します。
収益還元法のうち直接還元法では、物件価値はおおむね「NOI(Net Operating Income:純営業利益)÷還元利回り(キャップレート)」で算定します。NOIは、賃料などの収入から運営費を差し引いた利益です。
例えば、250戸の物件で1戸当たり月20ドルの増収または経費削減が実現すれば、年間NOIは6万ドル増えます。キャップレートを5%と仮定すると、単純計算で物件価値は120万ドル増加します。1戸当たり月20ドルというわずかな改善でも、物件全体では大きな価値の差につながります。
この構造を踏まえると、賃料収入を増やし、空室や光熱費、修繕などの運営コストを抑えることが、物件そのものの収益力を高めると言えます。
Wi-Fiを“コスト”から新たな“収入源”に
スマートアパートメントのモデルでもう一つ注目したいのが、通信基盤をスマートロックやセンサーを確実につなぐ通信基盤であると同時に、新たな収入源として扱う仕組みです。
その一例として米Homebaseは、専有部のスマートロックやサーモスタットを提供するとともに、物件全体に「マネージド型Wi‑Fi」を敷設し、入居者がスマートホームアプリケーションから通信プランを選べる仕組みを提供しています(図2)。入居時点で安定したWi‑Fiサービスが使えることはもちろん、用途に応じて増速サービスに切り替えるといった選択を可能にします。
この仕組みの中ではネットワーク運用や決済のための基盤も提供しており、物件オーナー自らが、速度に応じた通信プランと料金を設定可能です。入居者が支払うWi-Fi利用料を新たな収益源とすることで、NOIを高められるのです。
このマネージドWi-Fiと呼ばれる収益モデルの展開は、Homebase以外にも前述したSmartRentや、同業の米RealPage、米WhiteSkyなどにも見られます。

