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  • スマートホームで越境する空間ビジネスの好機

スマートアパートメントが不動産の収益構造を変える【第4回】

新貝 文将(X-HEMISTRY 代表取締役/CSA日本支部 代表)
2026年9月17日

スマート化は管理会社の業務効率を高める

 企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の観点で見落とせないのが、スマート化が入居者の体験を高めると同時に、管理会社の業務そのものを変えている点です。

 代表例が無人内覧です。内覧希望者は本人確認を済ませたうえで期限付きのアクセスコードを受け取り、スタッフの立ち会いなしで共用エントランスから住戸まで見学します。Rentlyが2026年5月に米国の賃貸入居者800人を対象にした調査では、42%が最初の内見方法として無人内覧を希望しました。また、68%が日程調整の難しさを理由に物件への関心を失った経験があると回答しています。

 北米のスマートアパートメントは、PMSとの連携も重視しています。例えば、スマートロックの電池残量低下を検知して保守作業を起票したり、漏水センサーのアラートを作業指示につなげたり、空室のサーモスタットを省エネ設定へ切り替えたりといった運用がシステム化しています。

 調査会社の米Parks Associatesによれば、スマートアパートメントを含むコネクテッドビル技術を導入した集合住宅で、運営効率が平均20%改善したほか、運営コストを18%、エネルギーコストを19%、水使用量を18%、それぞれ削減したとの報告があります。

 マネージド型Wi‑Fiもこの延長線上にあります。入居時点で安定したWi‑Fiサービスが使え、用途に応じて増速サービスに切り替えができることは入居者にとっての価値であると同時に、スマートロックやセンサーを確実につなぐ通信基盤にもなっています。

日本のスマートホームは専有部の利便性止まり

 日本でも賃貸住宅のスマート化は着実に進んでいます。例えば、三菱地所グループの「HOMETACT」は約200社の不動産事業者に採用され、既築物件で賃料を最大30%超引き上げた例を公表しています。また、アクセルラボの「SpaceCore」は450社超のオーナー・管理会社が利用し、導入物件の賃料上昇を実証しています。

 ただし、北米と比較するとまだ課題があります。

課題1:スマート化の対象

 日本では専有部の利便性を高めるサービスが先行しています。エントランスの顔認証や「置き配」といった共用部の個別サービスも普及してはいますが、専有部と共用部、駐車場、カメラ、通信などを1つの運用基盤として扱う例の実装は、まだ途上にあります。

課題2:PMSとの連携

 日本の不動産テック企業7社などによる2025年の共同調査では、賃貸管理システムや不動産基幹ソフトウェアを「導入中または導入進行中」とした回答は5割弱にとどまりました。事業者ごとに異なるシステムの使い分けや、システム間の連携不足も課題として挙がっています。

 入退去情報と、第3回で取り上げたような「鍵」の発行・失効をPMSに自動連携する取り組みは一部で始まっているものの、それだけでは業務全体のデジタル化にはつながりません。問い合わせや設備点検、修繕などまでをワークフローとしてつなげてこそデータを業務改善に生かせるわけで、その点北米型とは差があるのです。

課題3:Wi-Fiの位置付け

 日本では全戸一括型のマンションISP(Internet Service Provider:インターネット接続事業者)が一般化しています。しかしその多くは「インターネット無料」を物件の付加価値として提供する形で、その費用はオーナーが負担し、賃料に織り込む構造です。入居者が自ら選んで支払えるメリットと、その差益がオーナーに入る北米型の収益モデルとは大きく異なります。

 この違いは、通信を物件のコストと捉えるか、物件から生み出す収益と捉えるかの違いでもあります。海外では2026年に入って、マンションISPとスマートホーム基盤を連携する動きも現れ始めました。

 日本でも、管理会社は人手不足と人件費上昇という課題に直面しています。こうした環境では、専有部の利便性で賃料を上げる段階から、米国のように共用部や管理業務、入居者対応まで含めて、建物全体の運営を見直す必要があります。

 北米のスマートアパートメントは、便利な住宅設備を売り込む時代から、スマートホームを「建物全体の収益力と運営効率を支える基盤」として活用する段階に来ていることを予感させるのです。

 次回は、韓国Samsungの「SmartThings」を例に、多様な機器を一括管理するOSが、空間ビジネスや業務のDXをどう変えるのかを考えます。

新貝 文将(しんがい・ふみまさ)

J:COM グループでさまざまなインターネット関連サービスの事業立ち上げを経て、2013 年から東急グループでスマートホームサービス「intelligent HOME」のサービス立ち上げを牽引し、Connected Design の CEO に就任。その後、スマートホームベンチャーのアクセルラボの COO/CPO としてスマートホームプラットフォーム SpaceCore の立ち上げを牽引したあと、株式会社 X-HEMISTRY を設立。豊富な事業立ち上げ経験を活かした伴走型ハンズオン支援や実行支援を展開。世界中の IoT 関連企業とのコネクションも幅広く持つ。2024 年 4 月に発足した Connectivity Standards Alliance 日本支部の代表に就任し、スマートホームのグローバル標準規格「Matter」やスマートロックの標準規格「Aliro」の普及推進を牽引。