• Column
  • スマートホームで越境する空間ビジネスの好機

空間運用OSが設備と業務システムをつなぐ【第5回】

新貝 文将(X-HEMISTRY 代表取締役/CSA日本支部 代表)
2026年10月22日

空間運用OSがつなぐのは機器ではなく業務

 法人空間には、照明、空調、ディスプレー、会議室設備、入退室管理、カメラ、センサー、充電設備などが混在しています。課題は機器の数ではなく、メーカー別のアプリ、拠点ごとの管理画面、設備別の保守窓口が増え続けることにあります。

 必要なのは、機器をつなぐだけのハブではありません。空間を階層的に見せ、監視や遠隔制御、拠点横断の権限管理、自動化を担い、予約・人事・宿泊管理といった業務システムとも連携する「空間運用OS」としての役割です(図1)。

図1:空間運用OSは、空間・設備・業務システムを1つの基盤で統合する(筆者作成)

 オフィスで考えてみます。人事システムで入社や異動、退職が確定すると、空間運用OS上では入退室や会議室の利用権限が自動で更新します。これは退職者の権限が残り続ける事態を防ぐ意味で、昨今のコンプライアンスの観点からも欠かせない仕組みです。第3回で取り上げたデジタルキーの国際標準規格「Aliro(アリロ)」が普及すれば、更新した権限を社員のスマートフォンに直接配信する道も開けます。

 さらに、会議室の予約に合わせて照明や空調が最適化され、空調などの異常を検知すれば保守依頼のチケットを自動で起票します。本社は、拠点ごとの稼働率や利用状況、エネルギー管理、障害件数を比較できます。スマートオフィスは「便利な会議室」にとどまらず、総務・IT・施設管理の分断を減らす業務基盤としての性格を帯びます。

 ホテルでは、予約管理システムと客室設備の連携が効きます。予約やチェックイン/チェックアウトと客室設備の情報に合わせて、到着前に客室を適温にし、退室後は省エネモードに戻し、デジタルキーの有効期限を宿泊期間にそろえられます。ロイヤリティ(忠誠心)の高いゲストには、どの施設に泊まっても同じ体験や好みの室内環境を用意します。宿泊体験の工場とバックヤード業務の効率化を、同じ基盤で実現できます。

 これは、前回第4回で紹介した北米のスマートアパートメントが、PMS(Property Management System:物件管理システム)との連携で運営コストを抑えていたのと同じ構図です。米国でもスマートホームもかつては富裕層向けに始まり、一般に普及していきました。スマートビルディングについても、SmartThings Proの例を見ると似た展開を示しています。

 オフィスやホテルの例で見た業務連携に加え、空間運用OSは日々の管理コストも下げます。その効果はすぐに現れるわけではありませんが、初期設定や日常監視、障害対応、権限管理、機器台帳の管理といった個々の作業を、少しずつ軽くする積み重ねで効果を発揮します(図2)。

図2:空間運用OSによる統合管理は、設備ごとの個別管理をデータに基づく業務運用へ変える(筆者作成)

 空間運用OSでは、機器や拠点ごとに分かれていた作業を1つの基盤に集約します。これにより、同じ設定や確認を拠点の数だけ繰り返す手間が消えます。

建物は「所有」から「継続的な運用改善」へ

 こうして見ると、法人が本来調達すべきものは、スマートロックやセンサーそのものではありません。空間から得られるデータを継続的に利用し、運用を改善し続ける仕組みです。導入企業は、設備を所有して管理する発想から、データを起点に空間の運用を磨き続ける発想へと切り替えていくべきです。今後は、SmartThings Pro同様に外部連携のためのAPIを公開する動きが広がり、さらにAI技術を活用して業務効率化につなげる流れが加速していくと考えられます。

 次回は、ハードウェアの売り切りモデルから脱却し、継続的なサービス収益を生む「空間SaaS(Software as a Service)」の構造を、住宅や事業用施設向けにクラウド基盤を提供する米Alarm.comを例に考えます。

新貝 文将(しんがい・ふみまさ)

J:COM グループでさまざまなインターネット関連サービスの事業立ち上げを経て、2013 年から東急グループでスマートホームサービス「intelligent HOME」のサービス立ち上げを牽引し、Connected Design の CEO に就任。その後、スマートホームベンチャーのアクセルラボの COO/CPO としてスマートホームプラットフォーム SpaceCore の立ち上げを牽引したあと、株式会社 X-HEMISTRY を設立。豊富な事業立ち上げ経験を活かした伴走型ハンズオン支援や実行支援を展開。世界中の IoT 関連企業とのコネクションも幅広く持つ。2024 年 4 月に発足した Connectivity Standards Alliance 日本支部の代表に就任し、スマートホームのグローバル標準規格「Matter」やスマートロックの標準規格「Aliro」の普及推進を牽引。