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- “正論“では動かない!人が動きたくなるゲーミフィケーションの基礎と実践
ゲーミフィケーション導入の“向き・不向き”の境界線【第2回】
ゲーミフィケーションの「得意領域」と「不得意領域」
では、DXプロジェクトにゲーミフィケーションを取り入れるべきかどうかは、どのように判断すればよいでしょうか。ゲームの力は強力ですが“万能の魔法”ではありません。ゲーミフィケーションにも明確な「得意領域」と「不得意領域」が存在します。
ここを見誤ると、せっかくの投資が水の泡になるどころか、組織を混乱させる原因にもなり得ます。その境界線を整理したのが図1です。
劇的な効果を発揮する「得意領域」
得意領域のキーワードは「人間の心理的なハードルを下げ、行動を促し、習慣化する」ことです。
●ルーティンワークのモチベーション向上 :毎日の営業データの入力、顧客カルテの更新など「やり方は分かっているけれど、面倒くさくて後回しにしがちな業務」は最高の適応領域です。入力すること自体に小さなフィードバック(演出や小さな達成感)を与えることで、行動のハードルを劇的に下げられます。
●初期利用者のオンボーディング(定着化) :新しい社内ツールを導入した直後、利用者は「何をすれば良いか分からない」状態になります。ゲームの「チュートリアル(最初の簡単なステージ)」の考え方を応用し、ステップ・バイ・ステップで基本操作をクリアさせる設計は非常に有効です。
●知識・スキルの習得(リスキリング・研修) :コンプライアンス研修やITリテラシー向上など知識のインプットが必要な領域です。退屈な座学を「ミッションクリア型」のクイズやシミュレーションに変えることで、受講率と知識定着率を同時に高められます。
導入を避けるべき、あるいは慎重になるべき「不得意領域」
以下のようなケースにゲームの考え方を無理に当てはめるのは危険です。
●人間が介在しない(すべきでない)完全自動化すべき領域: ゲーミフィケーションは、あくまで「人間の意志や行動」をドライブするための手法です。そのため「そもそも人間がやる必要がなく、システムやAI(人工知能)技術で完全に自動化すべき領域」には全く向いていません。
例えば、複数のシステム間でデータを右から左へ転記するだけの作業や、条件に合致したログを抽出するだけの作業などは、RPA(Robotic Process Automation)やプログラムで終わらせるべきです。ここに無理やり人間を介在させ、ゲーム要素を取り入れて「楽しく入力させよう」とするのは本末転倒であり、DXの方向性としても間違っています。
●システムや業務プロセス自体がそもそも「使いにくい」場合 :「画面の読み込みに30秒かかる」「ボタンがどこにあるか分からない」といったUI(User Interface)/UX(User Experience)の根本的な欠陥を、ゲーミフィケーションで“お化粧”して、ごまかすことはできません。前述した通り、ゲーミフィケーションは体験を設計するものです。導線の整理や不具合の修正といった「マイナスをゼロにする」改善が先決です。
●過度な競争が不正を招く恐れがある場面 :例えば、カスタマーサポートの受電件数だけでランキングを競わせたとします。すると、オペレーターは件数を稼ぐために「顧客の悩みを根本解決せずに早く電話を切る」「簡単な案件だけを横取りする」など本質から外れた行動(チート行為)に走るようになります。評価指標(KPI:Key Performance Indicator)とゲーム設計の連動には細心の注意が必要です。
ゲーミフィケーションは“お遊び”ではない
ゲーミフィケーションは、単に画面を賑やかにしたりポイントを配ったりする“お遊び”ではありません。人間の行動心理を深く理解し「正論(機能的価値)」のシステムに「楽しさ(情緒的価値)」というエンジンを積み込むための、極めてロジカルな設計手法です。
DXプロジェクトで「人が動かない」と悩んだときは、まずその課題がゲーミフィケーションの「得意領域」にあるかどうかを見極めてください。自動化すべき対象ではなく「現場の人間が主体的かつ継続的に動くこと」がボトルネックになっているのであれば、ゲームの知見は強力な武器になります。
では、実際に利用者の心を掴むシステムは、どのようなステップで作られているのでしょうか。次回からは、より実践的な「体験の作り方」に入っていきます。まずは、人間の脳が持つ“無意識”の領域にアプローチし、利用者が理屈抜きで「つい触ってしまう、使ってしまう」瞬間的なUXの作り方について、具体的な例題と回答例を交えながら詳しく解説します。
伊藤 真人(いとう・まなと)
セガ エックスディー 代表取締役 社長執行役員CEO。セガにゲームプランナーとして入社しモバイルゲームディレクターを担当。 新規事業部門にて広告事業を立ち上げ、総ユーザー数1億超を達成。その後メディア/ポイント/コミュニティサービス等の幅広いデジタルサービスの立ち上げを担う。 2016年に新規事業部門をスピンオフし「エンタテインメントの社会実装」を掲げるセガ エックスディーを設立し、2026年6月に代表取締役に就任。単著に『ゲームフルデザイン 「やりたくなる」を生み出すゲーミフィケーションの進化』(翔泳社、2025)がある。
