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- 今考えたいエマージングテックの価値と企業の成長戦略
AI+ブレインテックで“思考”を企業のインフラに再設計する【第5回】

前回は、AI(人工知能)技術をハブに組み合わせるエマージングテクノロジー(新興技術)として量子コンピューターを取り上げた。今回は、組み合わせるテクノロジーとしてブレインテックを取り上げる。現状、AI技術と人間の関係性は、AI技術の生成生物を個々人が利用する段階にある。ブレインテックを介しAI技術と人間とがつながれば、個々人の判断は組織として判断できるようになるはずだ。その仕組みを企業が設計できる「思考のインフラ化」への道筋を解説する。
企業における生成AI(人工知能)技術の活用は、文章作成や情報検索から、企画、研究開発、分析、意思決定支援などへと広がっている。その背景には、生成AI技術の進展がある。焦点は回答生成から、根拠を探し、道具を使い、複数の情報形式を扱う仕組みへ移っている。
代表的な例が、社内外の情報を検索し回答根拠にするRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)や、目的に沿って作業を進めるAIエージェント、文章・音声・画像などを横断するマルチモーダルAIだ。
これらの進展により生成AI技術は、作業の速さを高めるだけではなく、情報を集める、論点を組み立てる、選択肢を比べる、結論を言葉にするといったことが可能になってきた。生成AI技術が仮説や表現を生み、AIエージェントが調査・分析の工程を進め、組織の知識基盤が根拠と関係性を支える。
そうして生成AI技術は、問い自体が固まり切っていない段階から、仮説や反論を示し、人間が見落としていた論点を浮かび上がらせる。AIエージェントを人物や顧客、技術、案件のほか、過去の意思決定を構造化した知識基盤につなげれば、「自社では誰が何を知り」「どの判断が何を根拠に行われたのか」という組織固有の文脈も扱いやすくなる。
一方で人間は、目的と判断基準を定め、結果の意味を解釈し、最終的な判断を行う役割を引き受けることになる。
人間とAIとをブレインテックでつなぐ
組織固有の文脈は従来、個々人の頭の中に閉じ込められていた。その思考の工程を「ブレインテック(Brain Tech)」という技術によりAI環境と接続できれば、思考そのものが個人の能力だけに依存せず、組織として設計・再利用できるようになる。知的生産は、一人の頭の中で完結する営みから、人間とAI技術と組織知とが接続された「思考システム」へと変わる。
ブレインテックとは、脳科学とデジタル技術を組み合わせて脳の状態を計測・解析し、人間の認知や感情、行動を理解するための技術やサービスを指す。「ニューロテック」と呼ばれることもある。
思考するAIシステムとの接続を実現するための技術として(1)脳波などの非侵襲(ひしんしゅう)・ウェアラブル化、(2)心拍・視線・操作履歴を併用する複合センシング、(3)推定結果を情報提示へ返す閉ループ化(クローズドループ化)などの開発が進められている(図1)。
ブレインテックは、単一の計測値から人間の心を読み取るわけではない。複数の手掛かりから認知負荷や注意、疲労の変化を推定し、情報量や、説明の粒度、課題の難易度、通知のタイミングを調整する。人の状態を捉え、AI技術や情報環境に伝え、その反応を確かめる。この循環がブレインテックを思考システムへ接続する。
当然、脳の活動から、集中や創造性、正しい判断などを直接読み取れるわけではない。計測値は個人差や環境、課題の影響を受けるため、脳の活動は認知状態を推定する手掛かりの1つとして扱う。焦点は、人の内面を読み当て人事評価や行動管理に用いることではない。人の状態に合わせてAI技術や情報環境を調整することにある。
ただ、こうしたデータは本人の自律性や尊厳と結びつきやすく、通常の行動データ以上に慎重な扱いが求められる。それだけにブレインテックの利用に向けては、脳や認知に関わるデータに対する社会の受容性に留意しなければならない。推定精度だけでなく、利用目的や、本人への説明と同意、利用範囲、撤回・削除、人の関与までを設計する必要がある。
